103万円の壁はどうなる?引き上げ時の影響について
年収の壁・103万円の壁の引き上げとは
103万円は給与所得控除の55万円と基礎控除の48万円とを合わせた金額で、年収がこの金額を超えると所得税が発生します。
また、本人に所得税が発生するだけでなく、配偶者や親等の扶養者がいる場合には、配偶者又は親等の扶養者の所得控除額が(配偶者の場合は段階的に)減少します。
これらが本人もしくは配偶者又は親等の扶養者の納税額の増加につながることから、パートや学生アルバイトの働き控えの要因にもなっています。
引き上げ額
この103万円は1995年から約30年間変更されていませんが、この間、最低賃金は1.73倍上昇しています。
この最低賃金上昇率に基づいて、2024年10月の衆議院選挙公約の一つに
103万円×1.73≒178万円
というものがありました。
なお、公約において178万円の内訳は明示されていなかったので、ここでは増額分75万円の全額を基礎控除額の増額と考え、引き上げ後の基礎控除額を123万円(=48万円+75万円)としています。
給与所得控除
個人事業主の事業所得は、収入金額から経費を差し引いて計算されますが、給与所得者の給与所得では、仕事に必要な費用であっても差し引く計算は行いません。
給与所得者は個人事業主のように経費計上ができない代わりに、給与所得控除で必要経費相当額を給与収入から差し引くことができます。
給与所得控除額は給与等の収入金額(A)に基づいて算出されます。
A≦162.5万円→55万円
162.5万円<A≦180万円→A×40%-10万円
180万円<A≦360万円→A×30%+8万円
360万円<A≦660万円→A×20%+44万円
660万円<A≦850万円→A×10%+110万円
850万円<A→195万円
※給与等の収入金額が660万円未満の場合は、正しくは当該計算式を使用せず所得税法別表第五により給与所得を求めますが、ここでは割愛いたします。
基礎控除
所得税額を計算するうえで税負担面での調整を行う趣旨から設けられている所得控除の一つで、最低生活費を保障するためのものです。
基礎控除額は合計所得金額(B)に基づいて定められています。
B≦2400万円→48万円
2400万円<B≦2450万円→32万円
2450万円<B≦2500万円→16万円
2500万円<B→0万円(適用なし)
※合計所得金額とは所得が給与所得のみの場合は、給与等の年収金額から給与所得控除額を控除した残額です。
高所得者ほど減税の恩恵が大きい?
高所得者ほど減税の恩恵が大きいとの報道がありました。
確かに高額所得者ほど「減税額」の恩恵は大きくなりますが、減税された率(以下「減税率」)で考えると大きくなりません。
高額所得者ほど「減税額」が大きくなるのは、所得税が超過累進課税制度を制度を採用しているからです。
「超過累進課税」とは、課税の対象額(課税所得額)が一定額を超えた場合、超えた金額に対してのみ高い税率を適用する制度のことです。超過累進課税で算出される税率は最低5%、最高45%と定められています。
課税所得額(C)に応じた税額は下記のようになります。
0.1万円≦C≦194.9万円→C×5%
195万円≦C≦329.9万円→C×10%-9.75万円
(中略)
1800万円≦C≦3999.9万円→C×40%-279.6万円
4000万円≦C→C×45%-479.6万円
※課税所得額とは、原則として合計所得金額(B)から基礎控除などの各種所得控除額を控除した金額です。
減税額は?減税率は?
ここでは年収別に減税額と減税率を試算してみます。
なお、試算にあたっては、当該引き下げが将来の法改正の可能性のある事項であり、確定した事項でないことから、2024年10月時点での情報を基にして、以下のいくつかの仮定を置いて行っている旨をご理解いただいたうえでお読み下さい。試算する年収額は一部報道にあった政府試算額と同じく、(1)2300万円(2)500万円(3)210万円とし、全て給与等の収入金額とします。
また上述のとおり引き上げ額は全て基礎控除額の増額とし、給与所得控除と基礎控除に加え社会保険料控除も考慮しました。
社会保険料控除額は給料から源泉徴収される社会保険料で、
(1)は月間上限概算額×12ヶ月の年間170万円
(2)(3)は年収×15%
としました。
(1)年収2300万円の場合
①引き上げ前の試算税額
年収2300万円
給与所得控除額△195万円(上限額)
社会保険料控除額△170万円(上限概算額)
基礎控除額△48万円
差引(課税所得額)1887万円
税額1887万円×40%-279.6万円=475.2万円
②引き上げ後の試算税額
年収2300万円
給与所得控除額△195万円(上限額)
社会保険料控除額△170万円(上限概算額)
基礎控除額△123万円
差引(課税所得額)1812万円
税額1812万円×40%-279.6万円=445.2万円
③減税額30万円=①-②
減税率 6.3%=(①-②)/①
(2)年収500万円の場合
①引き上げ前の試算税額
年収500万円
給与所得控除額△144万円=年収×20%+44万円
社会保険料控除額△75万円=年収×15%
基礎控除額△48万円
差引(課税所得額)233万円
税額233万円×10%-9.75万円=13.55万円
②引き上げ後の試算税額
年収500万円
給与所得控除額△144万円=年収×20%+44万円
社会保険料控除額△75万円=年収×15%
基礎控除額△123万円
差引(課税所得額)158万円
税額158万円×5%=7.9万円
③減税額5.65万円=①-②
減税率 41.7%=(①-②)/①
(3)年収210万円の場合
①引き上げ前の試算税額
年収 210万円
給与所得控除額△71万円=年収×30%+8万円
社会保険料控除額△31.5万円=年収×15%
基礎控除額△ 48万円
差引(課税所得額)59.5万円
税額59.5万円×5%=2.975万円
②引き上げ後の試算税額
年収 210万円
給与所得控除額△ 71万円=年収×30%+8万円
社会保険料控除額△31.5万円=年収×15%
基礎控除額△123万円
差引(課税所得額)0万円差引△15.5万円<0円∴0円
税額0円
③減税額2.975万円=①-②
減税率 100%=(①-②)/①
更に高額所得者を試算してみると・・
政府試算額にて例示の無かった高額所得者を試算してみます。
給与所得控除額には上項の給与所得控除に示したとおり上限があるうえ、基礎控除額には上項に示したとおり適用なしがあります。
①引き上げ前の試算税額
年収3000万円
給与所得控除額△195万円(上限額)
社会保険料控除額△170万円(上限概算額)
基礎控除額0万円(適用なし)
差引(課税所得額)2635万円
税額2635万円×40%-279.6万円=774.4万円
②引き上げ後の試算税額
基礎控除額が0円(適用なし)につき①と同額となるのため省略します。
③減税額0円=①-②
減税率 0%=(①-②)/①
「年収の壁」の引き上げが実現するのか、それとも現状のままとなるのか、いつも以上に国会での議論に注目です。
記.大阪事務所1課