2024/10/09

非上場株式に関する課税関係

自己株式の取得とみなし配当

株主が株式を売却した場合には通常『売却価格△取得価額=売却損益』が発生しますが、発行法人が株式を買い戻す場合(自己株式の取得)は『みなし配当』というものが発生します。
 
みなし配当とは、法人税法に規定されている剰余金の配当等には該当しないが実質的に配当等と変わらないため、配当の一種として取り扱われるものを指します。

従って、株式を発行会社に売却する個人の株主は譲渡所得だけではなく配当所得も発生するところに注意が必要です。

【具体例】
(会社設立時)
株式発行会社 A社  資本金:1,000円         
A社株主Bさん(個人) A社株式取得価額:1,000円
  
(自己株式取得時)
株式発行会社 A社  資本金: 1,000円
株価 :100,000円(純資産価額など)
A社株主Bさん(個人) A社株式売却価格:100,000円

①A社での税務処理
100,000円(売却価格)△1,000円(Bさんの出資額)=99,000円がみなし配当とされ、みなし配当に対しては20.42%の源泉徴収を行う必要があります。
従って99,000円×20.42%=20,215円を売却価格100,000円から天引きした残額79,785円を株主Bさんに支払い、天引きした20,215円は買い取った日の翌月10日までに国へ納付することとなります。
 
②Bさん(個人)の税務処理
みなし配当99,000円については配当所得として所得税の確定申告を行う必要がありますが、非上場株式に関しては分離課税ではなく総合課税(給与や他の所得と合算して計算)をされてしまいます。
また、株式の譲渡所得については分離課税ですが譲渡対価(買取価格100,000円からみなし配当99,000円を控除した残額)1,000円から譲渡原価(出資時の1,000円)を控除した金額で計算され、今回の場合だと株式譲渡所得はゼロとなります。

インターネット等で『個人 株式 譲渡所得』などで検索すると税率が20.315%と出てくるため、(1000,000円△1,000円)×20.315%=20,111円の税金しか発生しないと思っていたらみなし配当の総合課税によりとんでもない金額の税額(最大で所得税率45%)が発生することも考えられるため注意が必要です。

発行会社ではなく他の株主に売却した場合

上記のみなし配当は発行会社が自社株を買い取った場合に発生する内容です。他者に売却すれば通常の株式譲渡所得の計算を行うこととなります。

【具体例】
(会社設立時)
前項と同じ

(株主Bさんから株主Cさんへ株式売却時)
株式発行会社 A社    資本金: 1,000円
株価 :100,000円(純資産価額など)
 
A社旧株主Bさん(個人)  A社株式売却価格:100,000円
株主BからA社株式を購入した新株主Cさん(個人) A社株式取得価額:100,000円
 
①A社での税務処理
発行法人が株式を買い戻しているわけでは無いのでみなし配当は発生せず、税務処理は必要ありません。

②Bさん(個人)の税務処理
譲渡対価100,000円から譲渡原価1,000円を控除した残額99,000円に税率20.315%を乗じた税額20,111円が分離課税で計算されます。

③Cさん(個人)の税務処理
A社株式を100,000円で取得しただけですので特に納税等は発生しません。

他の株主から取得した株式を発行法人に売却した場合

他の株主から取得した株式を発行会社に買い取ってもらった場合もみなし配当の計算は前々項と同じですが、譲渡所得の計算上譲渡原価が違っているため、さらにひどい課税が行われる可能性があります。

(自己株式取得時)
株式発行会社 A社  資本金: 1,000円
株価 :100,000円(純資産価額など)
 
A社株主Cさん(個人) A社株式取得価額:100,000円
A社株式売却価格:100,000円

①A社での税務処理(前々項と同じ)
100,000円(売却価格)△1,000円(Bさんの出資額)=99,000円がみなし配当とされ、みなし配当に対しては20.42%の源泉徴収を行う必要があります。
従って99,000円×20.42%=20,215円を売却価格100,000円から天引きした残額79,785円を株主Cさんに支払い、天引きした20,215円は買い取った日の翌月10日までに国へ納付することとなります。

②Cさん(個人)の税務処理
みなし配当99,000円については前々項②Bさんの税務処理と同様に配当所得として所得税の確定申告を行う必要がありますが、非上場株式に関しては分離課税ではなく総合課税(給与や他の所得と合算して計算)をされてしまいます。
また、株式の譲渡所得については分離課税ですが譲渡対価(買取価格100,000円からみなし配当99,000円を控除した残額)1,000円から譲渡原価100,000円(Bさんからの取得価額)を控除した金額で計算され、今回の場合だと株式譲渡損失99,000円が発生します。
『じゃあ、みなし配当99,000円と譲渡損失99,000円を相殺すれば良いじゃないか』と思うかもしれませんが、これらは相殺出来ません。
利益が発生していないのに税金が発生するというのは何とも納得がし難いですね。

引退する役員株主から従業員が株式を買い取るケースがあるかと思いますが、その後その従業員が引退する際等に発行会社に株式を買い取ってもらうと予想外の税金が発生し訴訟にもなりかねないことから、自己株式取得の際は慎重に検討されることをお勧めします。

記.東京事務所2課