消費税の免税事業者とインボイス制度について
免税事業者とインボイス制度
消費税の免税事業者とは、消費税の課税対象とならない事業者のことです。つまり消費税の納税義務が免除される事業者のことです。
消費税の免税事業者になるための要件について説明します。
免税事業者の要件
1、基準期間の課税売上高が1,000万円以下
基準期間とは、個人事業主の場合はその年の前々年、法人の場合は前々事業年度を指します。
2、特定期間の課税売上高が1,000万円以下
特定期間とは、個人事業主の場合は前年の1月1日から6月30日まで、法人の場合は前事業年度開始日から6か月間です。
3、適格請求書発行事業者ではない
インボイス制度により、適格請求書発行事業者は免税事業者にはなれません。
4、設立1期目~2期目の法人であり、資本金1,000万円未満である
ただし、特定新規設立法人は除かれます。
インボイス制度とは
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、課税事業者が仕入税額控除を受けるために、適格請求書(インボイス)を保存することを求める制度です。適格請求書には、登録番号や適用税率、消費税額などの項目が記載されている必要があります。
また、適格請求書(インボイス)を発行するには、適格請求書発行事業者になる必要があります。
すでに令和5年10月1日よりインボイス制度が開始されていますが、免税事業者はインボイスを発行することが出来ません。そのため、取引先が消費税の計算をする上で支払った消費税を控除できないあるいは控除額に制約がでるという問題がでてきて、取引先が免税事業者との取引を避ける可能性があります。
以下に、免税事業者がインボイス制度にどう対応すべきかについて説明します。
課税事業者になる: 免税事業者が課税事業者となり、適格請求書発行事業者の登録を受けることで、取引先との関係を維持できます。
※免税事業者がインボイス登録を行うと、課税事業者として扱われ、消費税の納税義務が発生します。
免税事業者のままでいる: 取引先が一般消費者や他の免税事業者である場合、インボイス制度の影響は少ないため、免税事業者のままでいる選択もあります。
免税事業者のインボイス登録
免税事業者がインボイス制度に対応するための手続きについて説明します。
インボイス登録の手続き
免税事業者がインボイス(適格請求書)を発行するためには、課税事業者になる必要があります。以下の手順で登録申請を行います。
課税事業者への変更
まず、免税事業者から課税事業者になるための手続きを行います。これには、所轄の税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。
しかし令和5年10月1日から令和11年9月30日までの特例期間中は、消費税課税事業者選択届出書を提出しなくても、下記の適格請求書発行事業者の登録申請のみでインボイス登録することとなり課税事業者となります。
適格請求書発行事業者の登録申請
適格請求書発行事業者として登録するために「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署へ提出します。申請はe-Taxを利用してオンラインで行うことも可能です。
登録通知の受領
税務署から登録通知書が送付されます。(現在は申請後1ヶ月~1.5ヶ月程度かかります。)
これにより、適格請求書発行事業者として正式に登録されます。
注意点
登録希望日: 登録申請書には、登録希望日を記載する必要があります。提出日から15日以降の日付を指定できます。
免税事業者が課税事業者になった場合の税務
免税事業者が課税事業者になった場合、消費税の計算方法は他の課税事業者と計算方法は同じで、基本は本則課税か簡易課税を選択して計算することになりますが、消費税の計算上の特例【2割特例】も選択することが出来ます。
これは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間に係る消費税の申告に必要な仕入控除税額の金額を特別控除税額とすることができる特例です。
特別控除税額とは、課税標準である金額の合計額に対する消費税額から、売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額をいいます。
次に免税事業者がインボイス登録をし本則課税を選択し、調整対象固定資産を取得した場合の税務について下記にまとめます。
調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、一の取引単位の税抜き価格が100万円以上のものを指します。例えば、建物、機械、車両などが該当します。
免税事業者がインボイス制度に登録し、課税事業者となった場合、調整対象固定資産を取得すると「3年縛り」が適用されます。これは、以下のような制約を意味します。
課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった場合、その取得日の属する課税期間の初日から3年間は免税事業者に戻れません。また、簡易課税制度を選択できません。尚、【2割特例】についても選択できません。
この「3年縛り」は、消費税の租税回避を防止するために設けられています。
しかし、免税事業者が特例期間(令和5年10月1日から令和11年9月30日)中にインボイス登録を行った場合、課税事業者選択届出書を提出せずに登録申請書のみでインボイス登録事業者となることができます。
この場合、調整対象固定資産を取得しても「3年縛り」は適用されません。
ただし、特例期間に免税事業者が適格事業者になった場合には、その登録日の属する課税期間の翌課税期間からその登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者になることができないというルールがあります。いわゆる「2年縛り」です。
(ただし、令和5年10月1日の属する課税期間に適格事業者になった場合には、この2年縛りのルールはなく、期日までに「適格事業者の登録の取り消しを求める旨の届出書」を提出することで免税事業者に戻ることができます。)
尚、この「2年縛り」においては要件を満たしていれば【2割特例】を選択することは可能です。
次に免税事業者がインボイス登録をし本則課税を選択し、高額特定資産を取得した場合の税務について下記にまとめます。
高額特定資産とは、一取引の単位につき税抜きで1,000万円以上の棚卸資産や調整対象固定資産を指します。
免税事業者がインボイス登録をし本則課税を選択し、高額特定資産を取得した場合、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間からその高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては免税事業者としての特例が適用されず、納税義務が発生します。(いわゆる「3年縛り」があります。)
この期間中は、簡易課税制度の適用も制限されます。尚、【2割特例】についても選択できません。
記.名古屋事務所1課