2023/10/05

振込手数料の負担はどちらのもの?

民法で振込手数料はどう扱われているか?

以前より商慣習として、半ば当然のように振込手数料を差し引いて代金の支払いが行われています。

振込手数料の負担者取り決めの合意があればそれに従いますが、その合意がなければ法律上は、実は全額を債務者が負担することとされています。

民法第484条には、別段の意思表示がない限り、債権者の住所にて弁済をしなければならない、いわゆる「持参債務の原則」が定められています。
代金を口座振込する場合にも持参債務の原則は適用され、住所=債権者の口座 に入金されて初めて弁済されたことになります。

また民法第485条では、弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は債務者の負担とする、と定められています。
これにより、弁済の費用=振込手数料 も債務者負担となります。

いずれの条文にも“別段の意思表示”があれば適用はされないとありますから、代金を請求する際に振込手数料を差し引かずに振込みをしてもらいたい場合には、契約書や合意書等にて振込手数料の負担者を取り決めておき、さらに請求書にも明記しておくのが良いでしょう。

振込手数料値引きのインボイスへの影響は?

振込手数料を差し引かれて入金があった場合、その手数料は売手側の負担であり、同額相当の値引きを行ったことと同じ取引になります。

預金10,120/売上11,000
値引   880/

原則として、上記の例で値引き880円分についての消費税の仕入税額控除を行うときには、相手先(買手)から返還インボイスの交付を受ける必要があります。

※「返還インボイス」とは、正式には適格返還請求書といい、値引きや返品に応じた際に適格請求書発行事業者が発行する必要がある書類のこと。

しかし、その金額が1万円未満(税込)であるときは、少額な返還インボイスとして、交付義務が免除されます。
現実的に、振込手数料が1万円を超えることはないため、振込手数料値引きへのインボイス対応は実務上必要ないということになりました。

ただし、交付免除の要件として、この場合の振込手数料相当の値引きを、“売上に係る対価の返還等”として帳簿へ記載していることが必要です。
よくありがちな処理で「支払手数料」として“課税仕入”と記載している場合には、原則通り返還インボイスが必要になってしまいますので、帳簿への消費税の区分記載にはご注意ください。

今後、振込手数料の負担はどうしますか?

民法では、買手(債務者)が支払いに行くのが原則。支払いに行くための交通費を負担するのと同様に、弁済費用は債務者の負担になる、という理屈です。そのため“別段の意思表示がある場合を除き”、振込手数料は振り込む側の負担となります。

一方で、昔は売手が集金に周っていたこともあったため、その名残として売手負担になった、といった説もあります。

前述通り、振込手数料値引きについて、少額返還インボイスの交付義務は免除されていますので、インボイスへの対応は不要ですが、これを機に、振込手数料の負担について検討する会社さんが増えてきそうです。
「振込手数料」をどう考えるか、つまりこれまでの商慣習を優先するか、債務者負担でお願いするか、または当面は柔軟に対応していくのか。
御社も検討する機会にしてみてはいかがでしょうか。

記.大阪事務所2課