2023/09/13

インボイス制度による税務上の対価の額への影響

インボイス制度による税務上の対価の額への影響

平成28年「所得税法等の一部を改正する法律」による改正後の新消費税法第30条第1項により、インボイス制度導入後は、インボイス発行事業者以外の者(消費者、免税事業者など又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れに係る消費税については、原則として仕入税額控除の適用を受けることができない、とされました。(経過措置あり)

これを受けて、令和3年2月に改正された消費税経理通達において、消費税の経理処理につき「税抜経理方式」を採用している事業者においては、上記により仕入税額控除が受けられない消費税は「税務上の取引対価の額」に含まれることが明らかになりました。

例えば、税抜経理方式を採用している事業者が免税事業者から税込11,000円の消耗品を現金で購入した場合、税務上は次の仕訳のようなイメージになります。

1.インボイス制度導入前
(  消耗品費  ) 10,000  /  ( 現金 ) 11,000
( 仮払消費税等 )  1,000

2.インボイス制度導入後(経過措置① R5.10.1~R8.9.30 → 80%仕入税額控除可)
(  消耗品費  ) 10,200  /  ( 現金 ) 11,000
( 仮払消費税等 )  800

3.インボイス制度導入後(経過措置② R8.10.1~R11.9.30 → 50%仕入税額控除可)
(  消耗品費  ) 10,500  /  ( 現金 ) 11,000
( 仮払消費税等 )  500

4.インボイス制度導入後(原則 R11.10.1~ → 仕入税額控除不可)
(  消耗品費  ) 11,000  /  ( 現金 ) 11,000

なお、「税込経理方式」を採用している事業者においては、税込金額=取引対価の額となるため、税務上の取引対価の額はインボイス制度導入前と変わりません。
また、会計システム等が上記の税務上の考え方に対応していると自動的に処理してくれますが、対応していないケースもありえるので、その場合は取引の都度又は決算時などに自分で仕訳修正を加えたり、申告調整をする必要があります。

資産の取得価額への影響

通常、事業者が減価償却資産を取得した場合、その取得価額によって、期間按分により経費計上したり、事業供用時に全額経費にできたりします。

税務上、減価償却資産については次のような取得価額基準があり、インボイス制度導入後もその基準は変わりませんが、税抜経理を採用している事業者が免税事業者等から減価償却資産を購入した場合には、税務上の取引対価の額がいくらになるか注意が必要です。

1.少額の減価償却資産:10万円未満
2.一括償却資産:20万円未満(1.以外)
3.中小企業者等の少額減価償却資産の特例:30万円未満、年300万円以下(1.及び2.以外)

インボイス制度導入前なら税込108,900円→税抜99,000円で消耗品費として事業供用時に全額経費計上できたものが、導入後は税抜10万円以上になり資産計上、つまり期間按分により経費計上しなければならない、ということが考えられます。他にも消費税の計算方法につき本則課税を選択している場合は、調整対象固定資産(100万円以上)や高額特定資産(1,000万円以上)の支払対価の額も、税務上の取引対価の額で判定します。
逆に、特別償却や税額控除の取得価額要件(例:中小企業投資促進税制 機械装置160万円以上、等)については、インボイス制度導入前では受けられなかったものが受けられるようになる、というケースも考えられますね。

交際費等の額への影響

税務上、接待飲食費のうち1人当たりの支払金額が5千円以下のものについては、交際費等の額に含めないことができます。なぜ含めない方が良いかというと、法人については「交際費等の損金不算入」という規定があるためです。
「交際費等の損金不算入」とは、法人が支出した交際費等は原則として損金の額に算入しない、というもので、この規定の適用を受けると課税所得が増える→法人税額が増えることになります。(個人事業主については、事業遂行上必要であれば経費計上できます。)

例えばインボイス制度導入後の令和5年10月1日に税抜経理を採用している事業者が免税事業者である飲食店で飲食等を行い、その支払金額が2名で11,000円だった場合、導入前なら1人当たり税込5,500円→税抜5千円で交際費等に含まれなかったものが、導入後は税抜5,100円(経過措置80%の場合)となり、交際費等に含まれることとなります。

また、交際費の損金不算入の規定には、中小法人の場合、年800万円の定額控除限度額があり、これについてもインボイス制度導入後もその限度額は変わりませんが、交際費等に免税事業者に対する支払いが含まれている場合は税務上の交際費等の額が導入前と変わるため、定額控除限度額内に抑えたつもりが超えてしまった、ということにならないよう注意が必要です。

いかがでしたでしょうか。
インボイス制度導入後、事務負担の増大は必至です。事業者だけでなく私たちのような職業会計人もまさに戦々恐々といった状況ですが、できる限りの準備・対応を尽くし、この荒波を乗り越えていきましょう。

記.大阪事務所1課