2023/08/30

賃上げ促進税制について

中小企業者向けの賃上げ促進税制の概要

賃上げ促進税制は簡単にいうと従業員の給与支給を増加させると雇い主である事業者の法人税又は所得税を減税するという制度です。
令和5年8月時点で実施されている規定は令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始される各事業年度が対象です。通常の1年間の決算であれば、令和5年3月期~令和7年2月期が当てはまります。個人事業主は令和5年分~令和6年分です。

今回は中小企業向けの内容をご紹介させていただきます。大企業向けは少し要件と税額控除率が異なります。中小企業向けの方が税額控除率が若干高いようです。

従前の規定からの変更点は下記のとおりです。
(1)控除される税額について、上乗せ措置が拡充され、給与支給増加額にかかる控除率が最大25%から最大40%となりました。
(2)上乗せ措置の一つである教育訓練費の増加について、明細書の「添付義務」から「保存義務」へ変更され、経営力向上要件が廃止されました。
経営力向上要件の廃止により、教育訓練費の増加のみで適用できるようになったため、利用しやすくなったように感じられます。申告書作成時に適用を忘れやすい項目になると思いますので、ご留意ください。

中小企業者等と大企業の区分ですが、下記の要件に該当する事業者が中小企業者等となります。
判定時期は適用を受ける事業年度末の現況によります。
(1)以下のいずれかに該当する法人
(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)

①資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、大規模法人等から一定の出資を受ける法人は対象外です。
  
②資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が 1,000 人以下の法人
(2)常時使用する従業員数が 1,000 人以下の個人事業主

(3)協同組合等(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合等)

税額控除の計算方法

【通常の適用要件】

「雇用者給与等支給額」が前年度と比べて1.5%以上増加した場合

→「控除対象給与等支給増加額」の15%を法人税額又は所得税額から控除(税額控除額)
※税額控除額は法人税又は所得税額の20%が上限となります。
※「控除対象雇用者給与等支給増加額」は調整雇用者給与等支給増加額が上限となります。規定が適用できるかの判定は「雇用者給与等支給額」で行いますが、税額控除額の計算は「控除対象雇用者給与等支給増加額」を使用し、「調整雇用者給与等支給増加額」が上限となります。用語が似ているため、間違いやすい項目となりますのでご留意ください。

「雇用者給与等支給額」等の金額は助成金など、他の者から給与補填のために受け取ったものを差引しますが、「雇用者給与等支給額」は「雇用安定助成金額」を差引しないのに対し、「調整雇用者給与等支給増加額」は「雇用安定助成金額」を含めた金額を差引するところがわかりずらい部分です。  

以下は用語の説明です。

「雇用者給与等支給額」
適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される「全ての国内雇用者」に対する給与等の支給額をいいます。ただし、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第 62 条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額(以下「雇用安定助成金額」といいます。)を除きます。)がある場合には、当該金額を控除します。

「比較雇用者給与等支給額」
適用年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。
前事業年度の月数と適用年度の月数とが異なる場合は前事業年度が6月以上であるときは前事業年度のみで年換算を行います。
前事業年度が6月の場合前事業年度の雇用者給与等支給額×12÷6
前事業年度が6月未満の時は前事業年度と前々事業年度の合計を年換算します。
前事業年度が3月、前々事業年度が12月の場合
(前々事業年度+前事業年度の雇用者給与等支給額)×12÷(12+3)

「雇用安定助成金額」
国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第 62 条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額をいいます。雇用安定助成金額には、以下のものが該当します。
① 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
② ①に上乗せして支給される助成金の額その他の①に準じて地方公共団体から支給される助成金の額
※雇用安定助成金額は、「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」に含まれますが、雇用者給与等支給額、比較雇用者給与等支給額の算出においては、「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」から除いて計算します。一方で、調整雇用者給与等支給増加額の算出においては、「給与等に充てるために他の者から支払を受ける金額」に含めて計算します。

「控除対象雇用者給与等支給増加額」
適用年度の「雇用者給与等支給額」から前事業年度の「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額をいいます。  

「調整雇用者給与等支給増加額」
適用年度の雇用安定助成金額を控除した「雇用者給与等支給額」から、前事業年度の雇用安定助成金額を控除した「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額をいいます。
「調整雇用者給与等支給増加額」=(「雇用者給与等支給額」-「雇用安定助成金額」)-(「比較雇用者給与等支給額」-前事業年度の「雇用安定助成金額」)

税額控除の上乗せ

【上乗せ要件①】
雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加の場合

→ 税額控除率を15%上乗せ
※通常分と合わせて「控除対象給与等支給増加額」の30%を法人税額又は所得税額から控除できます。
こちらも税額控除額は法人税又は所得税額の20%が上限となります。

【上乗せ要件②】
教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加

→ 税額控除率を10%上乗せ
※上乗せ要件①に該当しないときも通常分+上乗せ要件②で25%の控除が可能です。
「控除対象給与等支給増加額」が計算の基になりますので、教育訓練費が増加していても給与が増加していないと税額控除できませんのでご注意ください。

明細書を作成し保存しなければなりません。記載事項は教育訓練の時期、実施内容、受講者、支払証明(領収書の写し等)となります。
教育訓練の対象は国内の雇用者となっています。役員、個人事業主、使用人兼務役員、特殊関係者、内定者等の入社予定者に対する教育訓練は対象となりません。
教育訓練の範囲は外部の研修を受講の他、自社で行う場合は外部から講師又は指導員を招聘しなければなりません。社員が講師となる研修は含まれないようです。
※上乗せ後も税額控除額は法人税又は所得税額の20%が上限となります。
※控除対象雇用者給与等支給増加額は調整雇用者給与等支給増加額が上限となります。

中小企業庁がホームページに掲載しているガイドブックもご参照ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai/chinnagesokushin04gudebook.pdf

記.東京事務所2課