2023/07/26

タワマン節税のその問題点と見直し案

タワマン節税とは

タワーマンションそのものに定義はなく、建築基準法で構造上厳しい規定である高さ60メートル超の建築物をいわゆるタワーマンションと呼び、おおよそ地上20階以上のマンションを指しています。
このようなタワーマンションについては、「相続税評価額」と「市場売買価格(時価)」とが大きく乖離しているケースがあることから、相続税対策としてのメリットが大きくなっています。
ではなぜ「相続税評価額」と「市場売買価格」が乖離するのでしょうか。

マンションの相続税評価額は
①区分所有建物の価額 + ②敷地(敷地権)の価額 として算出されます。

①区分所有建物の価額=建物の固定資産税評価額×1.0
「建物の固定資産税評価額」は1棟の建物全体の評価額を専有面積の割合によって按分して各戸の評価額を算定
②敷地(敷地権)の価額=敷地全体の価額×共有持分(敷地権割合)
「敷地全体の価額」は、路線価方式又は倍率方式により評価

タワーマンションを上述の算式に当てはめて考えると建物の固定資産税評価額は低層階であっても高層階であってもマンション全体は同じ価値であるとして評価されます。しかし、実際の市場においては、一般的に高層階の方が眺望の良さ等の理由から資産価値が高いとされ、低層階に比べ高い価格で取引がされています。その為、高層階であればあるほど評価額と市場価格は乖離していくことになります。
土地は、マンションの場合、敷地の所有権は各住戸の床面積に応じて按分される為、戸数が多いほど1戸当たりの土地の持分は小さくなります。

この為、高階層の物件であるほど、低層階の物件や戸建て住宅等と比べて「相続税評価額」と「市場売買価格」の差が大きくなり、相続税の負担が抑えられることになります。

最高裁の判決

令和5年1月に国税庁が開催した有識者会議の資料「市場価格と相続税評価額の乖離の事例」を見ると、東京都にある築年数9年、総階数43階の23階の住戸の場合、市場価格が11,900万円に対し相続税評価額が3,720万円と乖離率が3.2倍にもなっているようです。
統計上の「戸建て」の場合の乖離率の平均が「1.66倍」、つまり評価額が市場価格の60%程度であることを考えると、乖離率に大きな差が生まれていることが分かります。
そんな中、この差による問題点について争われた、令和4年4月の最高裁判決(相続税更正処分等取消請求事件:国側勝訴)が話題をよびました。

詳細自体は割愛致しますが、上述のタワマン節税が過度な租税回避の目的で行われているものであり課税の公平に反するものとして、路線価による財産評価額が認められず、鑑定評価額によるものとされたのです。

この判決以降、マンションの評価額の乖離に対する批判の高まりや、取引の手控えによる市場への影響を懸念する向きも見られ、課税の公平を図りつつ、納税者の予見可能性を確保する観点からも、早期にマンションの評価に関する通達を見直す必要があるとされ、令和5年度与党税制改正大綱においても「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」と記載されました。

相続税評価の見直し案

適正化に向けての有識者会議が開催されていく中、令和5年6月の有識者会議により、マンションの相続税評価についての見直し案の要旨が発表されました。

見直し案では、相続税評価額が市場価格と乖離する要因として、「築年数」、「総階数」、「所在階」、「敷地持分狭小度」をあげ、この4つの指数に基づいて、統計的手法により乖離率を予測し、その結果、評価額が市場価格理論値の60%(戸建ての場合の乖離率の平均)に達しない場合は60%に達するまで評価額を補正するというものです。

ざっくり言うと、相続税評価額を最低でも市場価格の6割とすることにより、同じ建物の低層階の物件や戸建て住宅等との間での乖離率の差異を解消しよう、というものになっています。

見直しは、区分所有に係る財産の各部分とされ、タワーマンションに限らず、区分所有登記がされたマンション1室が対象となっています。

ただし、
・総階数が2階以下の物件
・区分所有されている居住用部分が3以下であって、かつ、そのすべてが
 親族の居住用である物件(いわゆる二世帯住宅等)
は対象外とされています。

新たな評価方法を

「現行の相続税評価額×当該マンション一室の評価乖離率×最低評価水準0.6」

とした上で、評価乖離率が1.67倍以下となるマンション一室(戸建ての場合の乖離率の平均と比べ乖離が小さい場合)には補正はかけずに

「現行の相続税評価額×1.0」

とし、評価乖離率が1倍未満となるマンション一室(相続税評価額が市場価格を上回る場合)は市場価格まで減額されるように

「現行の相続税評価額×当該マンション一室の評価乖離率」
としています。

今後、国税庁において通達案を作成、意見公募手続き等の後、令和6年1月1日以後の相続等又は贈与により取得した財産への適用を目指すとされています。

記.東京事務所2課