2023/07/12

適格請求書(インボイス)が入手できない場合でも、仕入税額控除ができる場合

インボイスが入手できなくても、仕入税額控除できる?

適格請求書等保存方式(以下、インボイス制度)では、仕入税額控除の適用を受けるため、原則、一定の事項が記載された帳簿と、適格請求書(以下、インボイス)の保存が必要です。 
インボイスが無い場合、原則、その分の仕入税額控除は受けられなくなり、消費税の納税負担が増えてしまいます。

ただし、インボイスの交付を受けることが困難である等の理由により、次の9つの取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で、仕入税額控除が認められる特例があります。
9つの取引は、簡単に記載しますと、以下の通りです。

①3万円未満の公共交通機関の利用
②インボイスの要件を満たす入場券等が使用時に回収される場合
③古物業者が、インボイス登録していない者からの古物の仕入
④質屋業者が、インボイス登録していない者からの質物の取得
⑤宅建業者が、インボイス登録していない者からの建物の仕入
⑥インボイス登録していない者からの、再生資源及び再生部品の仕入
⑦自動販売機及び自動サービス機から、3万円未満の商品の購入等
⑧郵便切手類のみが対価の、郵便ポストを介す郵便・貨物サービス
⑨従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費等

上記は、インボイスの「交付」義務が免除されている場合(①・⑦~⑨)、インボイスの保管ができない場合(②)、そもそもインボイス登録をしていない者との取引の場合(③~⑥)が規定され、インボイスが入手できないことが、お分かりかと思います。

記載事項は、何を書いておけば?

上記、9つの取引は、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で、仕入税額控除が認められます。つまり、インボイスが無くても、納税は増えません。
では、「一定の事項を記載」とは、帳簿に何を書いておけばよいのでしょうか?

記載事項は、以下の6つです。
1.取引相手の氏名又は名称
2.取引を行った日
3.取引内容
4.取引価額
5.帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引のいずれかに該当する旨
6.取引相手の住所又は所在地

「1.~4.はインボイスが入手できる場合も必要で、5.~6.の2項目の追記が必要」と、抑えておけばよいかと思います。5.は、9つの取引のうち、いずれかに該当するか明示できれば、柔軟に簡略化することが認められています。
例えば、「①3万円未満の公共交通機関の利用」に該当する場合、「3万未満の鉄道料金」や「公共交通機関特例」と記載できます。
また、「●は3万未満の鉄道料金」、「◆は郵便・貨物サービス利用」、と別途対応表を用意し、帳簿には記号のみの記載方法も認められています。

6.の住所又は所在地の記載は、一定の条件を満たせば、記載不要な場合もあります。

運用上の留意点

(1)と(2)で、概要をご紹介させていただきました。以下に、留意点を記載します。

(A)現行制度とインボイス制度で、「3万円未満」の範囲は異なる。
現行制度では、「3万円未満の課税仕入れ」は、記載事項を満たした帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能ですが、インボイス制度では、「公共交通機関の利用」、「自販機等から商品の購入」に範囲が狭まっています。

(B)3万円未満かどうかの判定は、1回の取引の税込価額で判定。
1人あたり、切符1枚あたりの金額では判定できません。例えば、3人分まとめて税込9万円の新幹線切符を購入した場合は、9万円で判定し、特例は使えず、乗車券等の保管等が必要です。

(C)出張費の精算と通勤手当。
出張旅費の精算は、「通常認められる範囲」であれば、特例が使えます。これは、所得税が非課税になる範囲で判定しますので、これまでと考え方は変わりません。通勤手当も、「通常認められる範囲」であれば、特例が使えます。出張旅費精算と異なる点は、あまり見かけませんが、所得税の非課税になる範囲は問わず、通常認められる範囲であれば、特例が使えます。

(D)一定規模以下の事業者は、1万円未満はインボイス不要
基準期間の課税売上高が1億円以下、又は特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限り、インボイス制度開始後6年間は、税込1万円未満の取引について、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる特例もあります。インボイスが無くても、納税は増えません。帳簿の記載事項は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる上記9つの特例と同様ですが、この特例に該当する旨の記載は不要です。1万円の判定は、(B)と同様です。

(E)簡易課税や2割特例の場合、インボイスはなくてもOK
簡易課税制度や、免税事業者がインボイス登録した際の経過措置の2割特例を使う場合、売上にかかる消費税からのみ納税額を計算します。そのため、インボイスが入手できなくても、仕入税額控除に影響なく、納税額負担にも影響ありません。  

ここまで、「インボイスの交付を受けることが困難である等の理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で、仕入税額控除が認められる特例」について、ご紹介させていただきました。

記.東京事務所1課