2023/07/05

インボイス制度の対応における独占禁止法や下請法

免税事業者との取引条件の見直し

インボイス制度実施後は仕入税額控除を行うには、仕入先からインボイスの発行を受け取る必要があります。
インボイスを発行出来ない免税事業者からの仕入れについては、仕入税額控除の出来ない金額が生じ、負担が増加することになってしまいます。
多くの事業者は、この負担の増加を回避するために対応策を検討しているかと思いますが、対応の方法や内容によっては独占禁止法や下請法で問題になる恐れがあります。

それでは独占禁止法上や下請法等において問題となる行為とはどのような行為になるでしょうか?
問題となる行為とは、取引上優越した立場にある事業者(買手)がインボイス制度の実施を理由に一方的に以下の行為を行った場合該当する可能性があります。
 
1 取引対価の引下げ
交渉等が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には優越的地位の濫用として問題となります。

2 商品・役務の成果物の受領拒否等
仕入先から商品を購入する契約をした後において、仕入先がインボイス発行事業者でないことを理由に商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用として問題となります。
  
3 協賛金等の負担の要請等
取引価格の据置きを受け入れる代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目で金銭の負担を要請することは、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、仕入先との間で明確になっておらず、仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合には、優越的地位の濫用として問題となります。
  
4 購入・利用強制
取引価格の据置きを受け入れる代わりに、当該取引に係る商品等以外の商品等の購入を要請することは、仕入先が事業遂行上必要としない商品等であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、優越的地位の濫用として問題となります。

5 取引の停止
免税事業者である仕入先に対して、一方的に免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、問題となるおそれがあります。

6 登録事業者となるような慫慂(しょうよう)等
課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは問題となるおそれがあります。

いずれにしても買手側の事業者には取引先選択の自由があるため、取引価格の引下げなど、行為そのものが直ちに問題となるわけではないため、事情の変更にあった、取引先との適切な協議や交渉を行う必要があります。

取引価格の見直しにおける考え方

公正取引委員会は、インボイス制度実施後も免税事業者を選択する場合には消費税相当額を取引価格から引き下げると一方的に通告を行った事例について、注意を行ったとのことです。
 
「注意を行った事業者の業態と取引先」
・イラスト制作業者        →  イラストレーター
・農産物加工製品製造販売業者   →  農家
・ハンドメイドショップ運営事業者 →  ハンドメイド作家
・人材派遣業者          →  翻訳者・通訳者
・電子漫画配信取次サービス業者  →  漫画作家
 
注意事例の公表内容では、「経過措置により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず」との記載がありました。免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度開始後の3年間は仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割を控除できる経過措置が設けられています。インボイス制度実施を契機に取引価格の見直しをする場合には、この発注者側の8割控除等について考慮するべきポイントとなるようです。
また、公正取引委員会では、先だってインボイス制度への対応に関するQ&Aを公表しています。

そのQ&Aの取引価格の引下げにおいては「免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得のうえで取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。」との記載があります。免税事業者においても消費税を負担しているため、その負担についても考慮するポイントとして重要な点となるようです。

取引価格見直しの交渉においては、発注者側の負担と仕入先免税事業者の負担などの実情を考慮して、形式的ではない協議を行うことが重要かと思います。

フリーランス新法が成立

ここまで独占禁止法や下請法についてお伝えしました。下請事業者に対する取引において、発注事業者を規制する法律は、独占禁止法、下請法、建設業法、があります。

下請法の規制の対象となる発注事業者は、資本金が一定額(最低額1,000万円)を超える法人となっています。中小企業においては資本金が1,000万円以下である場合も多く、それらの事業者においては特に上記法律に対する注意があまり必要でない部分がありました。
ただ、2023年4月28日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が国会で可決成立し5月12日に公布されました。
この法律は個人や一人会社で事業を行う、いわゆるフリーランスを保護する法律で、下請法と同様の規制を設け、「優越的地位の濫用規制」「発注時の取引条件の明確化」などが記載されています。

法律が施行されると(2024年中の施行予定)、フリーランスを取引先として発注した場合には、下請法にあった資本金の要件が無いため、これまで対象外であった発注事業者も注意が必要となってきます。

記.東京事務所1課