2022/10/04

土地の無償返還の届出

借地権について

土地を借りて
① 借地人(土地を借りている人)が建物を建築し
② 地主に対して地代を払う
この2つの条件を満たすと、借地権が発生します。

借地権は借地人を守る権利であり、とても強い法律上の保護を受けます。
例えば、地主と借地人の仲が悪くなったからといって地主は一方的に借地人を立ち退かせられないというものです。
立ち退きには正当な理由が必要となり、正当な理由の代表例は地代の滞納です。借地人が決められた期日までに地代を払わないことが複数回続き地主と借地人の信頼関係が破壊されてしまったような場合は
立ち退きを求めることが可能です。裏を返すと、このような事態が無い限りは地主は借地人を立ち退かせることが法律上できません。
さらに、借地権は契約期間が自動更新されます。当初の契約で期間の定めがあったとしても、期間満了時に他へ行く当てもないのでまだ立ち退けないと申し出た場合地主はその要求を飲まなければいけません。そのため、地主にとっては一度土地を貸すと半永久的に土地が返ってこないという事態に陥ります。
このようなことから、借地権を設定する際はそれ相応の対価を払うことが一般的な慣習となっておりこの対価のことを権利金といいます。
地代が期日通りに支払われている場合でも、地主の都合などによって土地の返還を求める場合は相応の金額の支払いが必要となり、その支払いが「立ち退き料」です。

権利金の認定課税について

土地の貸し借りをする場合は権利金を支払うことが慣習として存在しています。しかし、地主と借地人の関係が法人とその法人を経営する役員の場合はどうでしょうか?権利金を受け取る場合、役員は所得として申告が必要になります。法人としても出費が発生する事になるので、できれば払いたくないと思う方は多いでしょう。

しかし、権利金の授受を行わない理由は「役員だから」では通りません。他人であれば権利金の授受をするのに、特別な関係だから権利金を授受しなかったというのは権利金を借地人にプレゼントしたのと同じ考えになってしまい権利金相当額に対して課税をします。これが「権利金の認定課税」です。

権利金の授受がなくとも、権利金の認定課税がされない場合があります。それは「相当の地代」の支払いがある場合です。地主としては、権利金はもらえなくともその分多めに地代を貰えるのであれば納得する場合もあると思います。この多めに貰える地代のことを「相当の地代」といいます。地代は地主と借地人両社の合意により決定するので、お互いが納得していればいくらでも問題ありませんが国税庁が一つの目安として設定した金額が「その土地の更地価額のおおむね年6%程度の金額」です。この金額の地代のやり取りが行われている場合には、権利金の授受が無くても権利金の認定課税はありません。

では、相当の地代よりさらに低い金額や無償で土地を貸す場合はどうでしょうか?自分の経営する法人であれば、このようなやり取りは多くあると思います。このような場合に活用されるのが「土地の無償返還に関する届出書」になります。

土地の無償返還に関する届出書

土地のに無償返還に関する届出書を提出すると権利金を支払わない代わりに、土地は無償で返還しますという意思表示となり権利金の認定課税をされなくなります。

土地の無償返還に関する届出を提出する際には
・地主と借地人の連名で作成する
・提出先は「地主」の所轄税務署
・借地契約書と土地の評価額のわかる書類を添付する
・提出期限は「遅滞なく」
こちらの要点に注意が必要になります。
提出期限に関しては明確な日数が決まっているわけではありませんが借地権の設定があった事業年度中までには提出するのが望ましいです。

また、土地の無償返還の届出は地主、借地人が共に個人の場合は提出できません。個人間の場合には必ず権利金の支払いが必要というわけではなく営利を追求する法人と違い、例えば親子間であったりする場合など土地を無料で貸す事も一般的と考えられるため、権利金や地代がなくとも認定課税をされることが無いからです。

しかし、個人間であっても地代の支払いがあれば借地権は発生します。地代の支払いがあるにもかかわらず、権利金の支払いがない場合には借地権の贈与と捉えられてしまうのでご注意ください。
※ 前述した「相当の地代」があれば課税されません。

個人間では土地の無償返還に関する届出は提出できないので地代の支払いを行う際には慎重にご検討ください。

地代の認定課税

土地の無償返還に関する届出を提出しておけば地代に関しては適当な金額でいいかというと、そうではありません。
原則としては、地代は支払うべきなのです。

その土地の一般的相場の地代よりも低い金額や無償の場合は、本来の地代との差額に対して利益供与があったと考え、課税の対象になります。
これを「地代の認定課税」といいます。

しかし、土地の認定課税に関しては実際に納税額が増えるわけではありません。
仮に、その地代の相場の金額が50万円
実際に支払っている地代が10万円の場合
会計処理では
・法人側の処理
地代家賃 10万円/現金 10万円

・地代の認定課税が行われると
地代家賃 50万円/現金 10万円
受贈益 40万円

・地主(個人)の処理
受け取った10万円が不動産所得となります。

本来50万円の地代に対して10万円しか支払っていないので差額の40万円は受贈益として利益になりますがそれと同時に本来の50万円の地代を支払った事になるので差引10万円となり、結果として納税額が増えるという事態は発生しません。
個人に対しても差額の40万円は課税されないことから相場の地代より低い金額の地代や無償であっても税務上問題が生じないことになります。
ただし、地主が法人で借地人がその会社の役員の場合は差額は役員報酬となり、他人であっても寄付として一時所得になるのでご注意ください。

注意点

土地の無償返還に関する届出の提出があれば地代の金額設定がいくらでも税務上問題はありませんが、金額によって取り扱いが異なります。地代を受け取る場合は「賃貸借」無償の場合は「使用貸借」という取り扱いになります。
地代の支払いがあれば全て賃貸借となるわけではなく最低限に金額の設定があります。その最低限の金額が「その土地の固定資産税額の2倍~3倍の金額」です。この金額以上であれば賃貸借、以下であれば使用貸借とされます。
賃貸借か使用貸借かで発生する影響は様々ですがその中でも相続が発生した場合の取り扱いが地主にとって一番大きな影響となります。

使用貸借の場合
土地の無償返還の届出が提出されている土地に関して相続が発生した場合は対象の土地に係る借地権の価額はゼロと規定されている為土地を貸し付けていたとしても借地権相当額は差し引けません。

賃貸借の場合は
自用地価額の80%を土地の評価額として計算できます。土地の評価額が20%下がる理由としては借地権の評価がゼロであっても、実質的に土地の利用制限があることなどを評価上考慮されているからです。

権利金の支払いもなく、地代も低額でいいのであれば喜ばしい事ですが相続が発生することも考慮すると一概に低い金額がいいとは言い切れなくなります。地代や借地権の設定には十分ご検討することをお勧めします。

記.名古屋業務1課