2022/08/31

法人成りのメリット・デメリット

法人成り(株式会社設立)のメリット

1.社会的な信用が向上する
法人を設立する場合は、法務局で登記しなければなりません。登記した内容は誰でも閲覧できるため、法人としての責任が発生し、社会的な信用度の向上になります。国に認められた「法人」は、信用度が高いと言えます。例えば、個人事業主とは契約を結ばない企業などからも、法人化することで新規の取引が可能になる場合もあります。

2.所得税を節税できる
法人化すると、会社から社長自身に役員報酬を支払うことができます。会社としては、役員報酬も経費となり、役員報酬に対して従業員と同様、給与所得控除が適用されます。ただし、役員報酬を損金計上するには、一定の要件を満たす必要がありますので、税理士などと相談したうえで決めるようにしましょう。

3.退職金を損金計上できる
個人事業の場合は、事業主本人への退職金は経費として認められません。しかし、法人であれば役員への退職金は損金計上が可能です。

4.消費税の納付が最大2年免除される
個人事業主も法人も、2年前の年間の課税売上が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が生じます。しかし、個人事業主として年間の課税売上が1,000万円を超えていたとしても、法人化すれば課税事業者になるタイミングを2年間遅らせることができます。法人化した場合、設立した1期目と2期目は「2年前の売上」が存在しないため、原則として消費税の納税義務が免除されるからです。

5.赤字を10年間繰り越せる
個人事業主であっても青色申告をしていれば、赤字を3年間繰り越すことができます。しかし、法人化すれば、赤字を10年間まで繰り越せるようになります。繰越控除期間の10年のうち、利益がでた年に赤字と黒字を相殺するため、利益がでた年の課税所得を減らすことができます。

6.生命保険料を経費にできる
個人事業主の場合は生命保険料を経費にすることができず、確定申告でわずかな生命保険料控除を受けるしかありません。一方で、契約者と受取人を法人とした法人契約で生命保険に加入すれば、保険の種類にもよりますが、保険料の一部を経費にすることができます。

7.無限責任から有限責任になる
個人事業主の場合は無限責任となり、つまり事業上の責任はすべて事業主が負わなければなりません。経営が悪化した際の仕入先への未払い金や、金融機関からの借入金、滞納した税金なども、個人の負債となります。一方、法人の場合は個人保証による借り入れを除くと出資金の範囲内での「有限責任」となり、代表者個人がすべての責任を負う必要はありません。つまり、出資額以上の支払い義務は発生せず、個人の資産は守られます。万一の際でも、リスクを最小限にとどめることができます。

法人成り(株式会社設立)のデメリット

1.設立費用などが発生する
法人成りには、設立費用がかかります。株式会社として会社を設立する場合、資本金は1円から設立可能ですが、約25万円の設立費用が発生します。また設立の準備や手続きを司法書士・会計士・税理士などに依頼する場合は、さらに費用が必要となります。

2.社会保険の加入義務がある
法人成りをした場合は、健康保険・厚生年金保険といった社会保険の加入は必須です。従業員を雇う場合は、原則として従業員の社会保険料の半額を負担しなければなりません。また、従業員を雇わず自分一人だけで事業を行う場合、個人事業主が支払う国民健康保険・国民年金保険に比べて社会保険料は高額となりやすい点に注意が必要です。

3.事務的な処理の負担が増える
法人成りをした場合、必要書類が著しく増加し、事務的な処理の負担が増加することになります。また、株式会社として法人成りをした場合、年度ごとに株主総会を開く必要があります。このような手間をすべて会計士・税理士に依頼すれば、その分費用が発生します。

4.赤字でも法人住民税の「均等割」が発生する
法人の場合、赤字であっても「道府県民税」と「市町村民税」の法人住民税の均等割額毎期7万円(地方自治体によって、均等割額が違います)が発生します。

5.各種契約料金が高くなるかも
法人名義で契約すると契約手数料が個人名義で契約するより割高になる場合があります。

法人成り(株式会社設立)のタイミング

1.概ね事業所得(利益)が800万円を超えたとき
個人事業主で利益が800万円の所得税の税率と利益が800万円超える部分の法人税等の税率が同程度となり、法人化することで経費に算入できる項目が増えたり、赤字を損益通算できる期間が長くなったりとさまざまなメリットがあります。利益が800万円を超え、さらに今後利益の増加が見込まれるというときは、法人化の検討を考えてはどうでしょうか。

2.課税売上が1000万円を超えたとき
課税売上が1000万円を超えると、消費税の納税義務が発生します。免税事業者になるためには、その事業年度の2事業年度前または前事業年度開始から6ヶ月の課税売上高が1000万円以下でなければいけません。法人成りをすると、個人事業の時の売り上げは関係せず、原則として法人設立後の2期目まで免税事業者になることができます。ただし、新会社設立時の資本金が1000万円以上の場合、第1期上半期課税売上高1000万円超または人件費1000万円超になる場合の2期目、個人事業主時代の売上高が5億円を超えているなどについては、免税事業者になることができません。

3.法人成りのタイミングは適格請求書等保存方式(インボイス制度)も意識して
2023年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されます。インボイス制度の実施後に「消費税免除を選ぶか」、「課税事業者となるか」という問題が生じます。課税事業者になることを選択すれば適格請求書を発行することはできますが、その場合には、消費税免除のメリットを失います。しかし消費税免除を選択すれば免税事業者とは取引しないという取引先が出てくる可能性も考えられます。法人成りの際にはこれらについてもよく考えておく必要があります。

法人成りをするタイミングは個人事業主それぞれで異なるため、所得税率と法人税率を比較してどちらが得か、法人化(株式会社設立)のメリット・デメリットなども検討して、専門家とも相談しながら進めるようにして下さい。

記.大阪業務2課