2022/07/28

相続税の申告における宅地の評価について

相続税の申告における宅地の評価

相続税の申告における宅地の評価は、国税庁が毎年公表する路線価により評価します。これは多くの方がご存じだと思います。この路線価は財産評価基本通達で規定されています。ただしこの相続税法における財産評価基本通達には、

①市街地的形態を形成する地域にある宅地・・・路線価方式
②①以外の宅地・・・倍率方式

と記載されています。
分かりやすくいいますと、都会は路線価方式、田舎は倍率方式という感じです。倍率方式とは、国税庁が公表しています倍率に、固定資産税評価額を掛け合わせて評価する方法を言います。

相続税法22条には、
「相続により取得した財産の価額は、財産の取得の時における時価による」
と規定されています。しかし時価の定義はどこにもありません。
では時価はどう判断するのかと言いますと、財産評価基本通達1 評価の原則(2)時価の意義で「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」
と規定されています。要するに財産の時価は財産評価基本通達に基づいて評価したものが時価という事です。
ただし財産評価基本通達では全ての宅地の価額を反映できない場合があります。時価と財産評価基本通達に乖離がある場合、財産評価基本通達6項に次の規定があります。財産評価基本通達6項 この通達の定めにより難い場合の評価
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」
と財産評価基本通達に定める時価に問題がある場合は、財産評価基本通達6項で適正な時価に国側が修正できる様に規定されています。

相続税更正処分等取消請求事件

【裁判の概要】
これは被相続人の相続人らが、相続により取得した財産の価額を財産評価基本通達の定める評価方法により評価して相続税の申告をしたところ、税務署から、相続財産のうちの一部の土地及び建物の価額につき評価通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められるとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたため、更正処分等の取消しを求めた事案です。

【裁判の事実関係】
被相続人は大正7年に出生し、平成24年6月に94歳で死亡し、相続が発生しました。被相続人の相続人は、妻、長女、長男、次男及び孫養子の5人です。不動産の取得の経緯は、東京都杉並区の不動産(甲不動産)と神奈川県川崎市(乙不動産)があり、甲不動産は平成21年1月30日付けで信託銀行から6億3,000万円を借り入れた上で、代金8億3,700万円で購入しました。
乙不動産は平成21年12月21日付けで相続人のうち1人から4,700万円を借入、12月25日付けで信託銀行から3億7,800万円を借り入れた上で、5億5,000万円で購入しました。
相続人らは、相続税の申告で財産評価基本通達の定める方法により、甲不動産を2億4万1,474円、乙不動産を1億3,366万4,767円と評価した上、平成25年3月11日、課税価格2,826万1,000円として基礎控除後、相続税の総額0円として申告しました。

国税庁長官は、国税局長からの上申を受け、平成28年3月10日付けで、同国税局長に対し、不動産の価額につき、財産評価基本通達6項により、財産評価基本通達に定める方法によらずに他の合理的な方法によって評価することとの指示をした。
税務署長は、上記指示により、平成28年4月27日付けで、相続人らに対し、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により相続の開始時における各不動産の価格として算定した鑑定評価額に基づき、甲不動産の価額が7億5,400万円、乙不動産の価額が5億1,900万円であるとして更正処分(相続に係る課税価格の合計額を8億8,874万9,000円、相続税の総額を2億4,049万8,600円とするもの)及び賦課決定処分をしました。

最高裁判所は財産評価基本通達6項を適用した判決を支持し、財産評価基本通達による評価額ではなく、不動産鑑定評価額に基づいた評価額に基づく課税処分を適法としました。

ただし最高裁判所は下級審(下級審の判決は時価との乖離が違法とされていた)の判決と違い、財産評価基本通達における時価と不動産鑑定評価における時価との乖離についてはそのことだけをもって違法ではなく、あくまで納税者間の公平の観点から国税庁の処分を適法と判断しました。

これからの宅地の評価

最高裁判所の判決を受けて、行き過ぎた節税は否認のリスクが高くなることがわかりました。

財産評価基本通達と時価の乖離を使った、節税スキームに歯止めをかけることを国側は求めているようです。
では今後このようなケースが起こりそうな場合、どのような注意が必要かと言うと、

①相続直前の対策は危険
明らかに余命との関係上、直前に不動産投資を行い相続税の課税価格を著しく減少させる行為は難しい。

②不動産の売却
相続税の申告が終わった後すぐに不動産を売却することは不動産の時価がはっきりわかり、財産評価との乖離が判明しやすくなります。また相続対策の為の不動産の購入ではと疑われる可能性が高くなります。

③金融機関から融資
この裁判の事案でも、銀行の稟議書から相続対策という記載があり、節税対策と言う印象を与えたようです。あくまで不動産購入が目的である印象を与えることがリスクの減少につながります。

④時価との乖離
今回の事例では財産評価基本通達と不動産鑑定評価額との間に、4倍程の差がありました。明らかな時価との乖離には国税庁も目を光らせていると思いますので、合理的な基準での評価が必要となります。

以上宅地の評価における路線価と時価との乖離についてお話しさせて頂きました。

記.大阪業務2課