2022/04/26

中小企業の所得拡大促進税制

所得拡大促進税制

令和4年度税制改正により「所得拡大促進税制」は新たに「賃上げ促進税制」となることが決定していますが、ここでは令和3年度税制改正により変更となった「所得拡大促進税制」の変更点についてご説明致します。
主な変更点は、適用要件を雇用者給与等支給額に一本化・簡素化されたことです。

旧制度の要件が
①雇用者給与等支給額が前年度よりも増加していること
かつ
②継続雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加していること
だったものが改正により
①雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加していること
のみとなりました。

又、税額控除額の上乗せ要件である、
①継続雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加しており、かつ次のいずれかを満たすこと
1教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加していること
2適用年度の終了の日までに中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされていること
が改正により
①雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加しており、かつ次のいずれかを満たすこと
1同上
2同上
となっています。
 
今までは、雇用者給与等支給額の他に、継続雇用者への給与等支給額を計算し判定を行う必要がありましたが、雇用者給与等支給額のみの比較で足りることとなっています。
上記要件を満たすことで雇用者給与等支給増加額の15%(上乗せ要件も満たすことで25%)を法人税額又は所得税額から控除することができます。(控除上限額は法人税額又は所得税額の20%となります。)

雇用者給与等支給額

雇用者給与等支給額の算定にあたって、一定の助成金を受けている場合の取り扱いにも変更点がありますので説明させていただきます。
雇用者給与等支給額について、改正後の規定では、
「雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるすべての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。ただし、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(「雇用安定助成金額」を除く。)がある場合には、当該金額を控除します。」
とされており、今までは雇用者給与等支給額から控除していた助成金等の内、「雇用安定助成金額」は控除しないこととなりました。

給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額には、以下のものが該当し、
①その補助金、助成金、給付金又は負担金その他これらに準ずるものの要綱、要領又は契約において、その補助金等の交付の趣旨又は目的がその交付を受ける法人の給与等の支給額に係る負担を軽減させることが明らかにされている場合のその補助金等の交付額
例:業務改善助成金等

②①以外の補助金等の交付額で、資産の譲渡、資産の貸付及び役務の提供に係る反対給付としての交付額に該当しないもののうち、その算定方法が給与等の支給実績又は支給単価を基礎として定められているもの
例:雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、緊急雇用安定助成金キャリアアップ助成金等

③①及び②以外の補助金等の交付額で、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人に対する給与を出向元法人が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人から支払いを受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額

これらの内、「雇用安定助成金額」には以下のものが該当します。
①雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
②①に上乗せして支給される助成金の額その他の①に準じて地方公共団体から支給される助成金の額

つまり、適用判定を行う際には国内雇用者に対する給与等の支給額から、業務改善助成金やキャリアアップ助成金は今までと変わらず控除しますが、雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、緊急雇用安定助成金は控除しないこととなっています。

税額控除額

適用要件の判定上は(2)で説明した雇用者給与等支給額により行いますが、税額控除額の計算上は、「調整雇用者給与等支給増加額」が控除上限額となります。(税額控除上限額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。)
調整雇用者給与等支給増加額は、雇用者給与等支給額から雇用安定助成金額も控除した後の金額で比較した場合の増加額をいいます。
このため、前事業年度と比べ、適用年度の「雇用安定助成金額」が大きい場合には、税額控除額は小さくなり、税額控除額がゼロとなる場合もございます。

例えば、
前年度の雇用者給与等支給額が5,200万円(雇用安定助成金額200万円)
適用年度の雇用者給与等支給額が5,700万円(雇用安定助成金額900万円)
だった場合は、

雇用者給与等支給額の増加額は
5,700万円 - 5,200万円 = 500万円ですが、

調整雇用者給与等支給増加額が
4,800万円 - 5,000万円 = マイナス200万円となる為、
税額控除額がゼロとなります。

この場合、所得拡大促進税制の適用要件は満たしていますが、税額控除額がゼロとなる為、税額控除を受けることはできません。

このように、雇用者給与等支給額が増加している場合でも、雇用安定助成金額次第では税額控除を受けられないパターンもありますので、給与の支給額だけではなく、助成金の内容や金額にもご注意ください。

記.東京業務1課