2022/03/29

事前確定届出給与の判例

事案の概要

第1審:東京地判平成24年10月9日訟月59巻12号3182頁[請求棄却・納税者敗訴]
控訴審:東京高判平成25年3月14日訟月59巻12号3217頁[控訴棄却・納税者敗訴確定]

X社(原告)は、超硬工具の製造及び販売等を業とする9月決算の内国法人である。
X社は代表取締役A(以下、「A」という)及び取締役B(以下、「B」という)に対して冬季の賞与(平成20年12月11日)及び夏季の賞与(平成21年7月10日)を、Aにつき各季500万円、Bにつき各季200万円と定め、平成20年12月22日に所轄税務署長に対し、事前確定届出給与に関する届出をした。
そしてX社は、冬季賞与について届出のとおりを支給した。ところが、平成21年7月6日の臨時株主総会において、業績悪化を理由に夏季賞与はAにつき250万円、Bにつき100万円にそれぞれ減額することを決議し、同月15日に夏季賞与としてそれぞれ上記金額を支給した。ただし、X社は本件夏季賞与の減額について、旧法人税法施行令69条3項の変更期限までに変更届出を提出しなかった。
以上のことから、X社は、本件事業年度中にA及びBに対して支給した役員給与のうち、夏季賞与については損金不算入としたが、冬季賞与については事前確定届出給与に該当するとして、その額を損金算入し法人税の確定申告をしたところ、課税庁から本件冬季賞与は事前確定届出給与に該当しないとし法人税の更正処分等を受けたことから、これを不服としたX社は、所定の手続きに基づいて本訴に及んだ。

争点としては、本件冬季賞与が法人税34条1項2号の事前確定届出給与に該当し、その額がX社の所得の金額の計算上、損金の額に算入されるか否かである。

判決要旨

第1審判決要旨

請求棄却。
裁判所は、法人税法34条1項2号の事前確定届出給与については、事前の届出により役員給与の支給の恣意性が排除されており、その額を損金の額に算入することとしても課税の公平を害することはないと判断されるためであると解されるとした上で、今回のように届出額よりも実際の支給額が減額された場合においては、当該役員給与の額を損金の額に算入することとすれば、事前の定めに係る確定額を高額に定めていわば枠取りをしておき、その後、その支給額を減額して損金の額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずるおそれがないということはできず、課税の公平を害することとなるとの判断がされた。
また、一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合における事前確定届出給与の該当性については、特別の事情がない限り、個々の支給ごとに判定すべきものではなく、当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきものであって、1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには、当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当であるとした。
なお、国税庁の「平成19年3月13日付課法2-3ほか1課共同『法人税基本通達等の一部改正について』(法令解釈の通達)の趣旨説明」(以下、「国税庁の趣旨説明」という)は、当初事業年度における支給は事前の定めのとおりにされたが、翌事業年度における支給は事前の定めとは異なる支給額とされた場合に、当初事業年度に支給された役員給与は損金に算入して差し支えないこととしている。
この点について本判決は、翌事業年度にされた役員給与の支給が事前の定めと異なることは当初事業年度の課税所得に影響を与えるものではなく、翌事業年度中に生起する事実を待たなければ当初事業年度の課税所得が確定しないとすることは不合理であることから、納税者に有利な取扱いを認め、翌事業年度に支給された役員給与のみを損金不算入とし当初事業年度に支給された役員給与は損金算入を許しても差し支えないこと
としたものであると理解することができ、事前確定届出給与が事業年度を跨がない場合の支給と跨ぐ場合の支給において、その取扱いが異なることについては矛盾していないとの判断を下した。
よって、本件冬季賞与は法人税34条1項2号の事前確定届出給与に該当せず、その額がX社の本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないものと判示した。

控訴審の判旨

控訴棄却・確定。
控訴審においては、控訴は棄却され、第1審判決を全面的に支持した内容となっており、業績悪化により事前確定届出給与の支給額を減額せざるを得ないような場合について、何らの手続を要しないまま損金算入を許せば、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却することになるから、所定の手続を経ることなく減額支給された事前確定届出給与を損金算入することはできないと解すべきであり、控訴人主張のように損金算入の可否を利益調整の意図や法人税の課税回避の目的の有無といった主観的な要素により判断することとなれば、法的安定性を害し、課税の公平を害することにもなるので、採用できない議論であると判示した。

個人的見解

本件は、事前確定届出給与の変更届出書の提出をすることによる救済措置があったにも関わらず、納税者がその行為を失念したということから、まずはこのような結果となることは仕方がないと考える。
しかし、法令の解釈論として、一の職務執行期間において複数回の事前確定届出給与が支給された場合におけるその該当性については、学説上も意見の分かれるところである。ただ、判決でも示された通り、届出どおりに支給した回の損金算入を認めるのであれば、例えば複数回にて事前確定届出給与の届出を行い、支給する回と支給しない回を選択できるような状況となってしまうことから、恣意性を排除し、租税回避行為を防止するという趣旨からすれば、本判決は妥当なものであると考える。
ちなみに、本判決においては、事前確定届出給与の支給日が届出した日と違うことについては、一切争点となっていない。
本来は届出どおりに支給すべきではあるが、実務上は支給し忘れて数日過ぎてしまったというケースも実態としてはあると思われる。
その場合、そのままこっそり損金に算入させるのか別表4にて加算するのかはお客様や担当税理士の判断によっていると思うが、この判例を以って損金算入できることを主張しても良いのではないかと考える。

記.名古屋業務1課