2022/03/13

個人で金を売却した時の税金

金地金とは

金地金(きんじがね)と言う言葉を見たり聞いたりしたことはあるでしょうか。
日本では、投資対象として「金」「銀」「プラチナ」といった貴金属の地金が取り扱われています。地金とは金属を保存しやすいように固めたものを指し、インゴットとも呼ばれます。
つまり金地金とは金の延べ棒などの現物の金のことです。
はたして、このような金地金を売却して生じた所得については税金がかかるのでしょうか。
結論から申し上げますと原則、課税の対象になり税金がかかります。

金地金の売買による所得区分

金地金を売却して生じた所得は、原則、譲渡所得として総合課税の対象になります。
ただし、継続的に営利目的で売買を行っている場合の所得は、譲渡所得にならず、事業所得または雑所得として課税の対象になります。(所法33②)譲渡所得、事業所得、雑所得ともに総合課税の対象ですので、累進課税の計算に組み込まれることになります。
尚、金投資口座や金貯蓄口座などからの利益は金地金の現物譲渡とは異なり、実態は金融取引に近いことから、金融類似商品の収益として一律20.315%(地方税5%含む)の税率による源泉分離課税となります。
この分離課税は、源泉徴収だけで課税が終了しますので、他の所得と合算して確定申告をすることができません。また、扶養親族などに当てはまるかどうかを判定するときの所得からも除かれます。
余談ですが、金の先物取引(商品先物取引)による所得については、他の所得と区分して、一律20.315%(地方税5%含む)の税率による申告分離課税となります。

金地金の売買 譲渡所得の計算方法

【譲渡計算方法】
金地金の売却に係る譲渡所得の計算は、特別控除(最高50万円)の適用があります。
また、所有期間が5年超の場合には課税対象が1/2となります。

計算式は下記のとおりです。

(1)所有期間が5年以内のもの(総合課税の短期譲渡所得)
・譲渡価額-(取得費+譲渡費用)=金地金の譲渡益
・{〔金地金の譲渡益〕+〔その年の金地金以外の総合課税の譲渡益〕}-譲渡所得の特別控除50万円
=課税される譲渡所得の金額

(2)所有期間が5年を超えるもの(総合課税の長期譲渡所得)
・譲渡価額-(取得費+譲渡費用)=金地金の譲渡益
・{〔金地金の譲渡益〕+〔その年の金地金以外の総合課税の譲渡益〕}-譲渡所得の特別控除50万円
=譲渡所得の金額
・(譲渡所得の金額)×1/2=課税される譲渡所得の金額

(注)譲渡所得の特別控除は、その年の金地金の譲渡益とそれ以外の総合課税の譲渡益の合計額に対して50万円です。これらの譲渡益が50万円以下のときはその金額までしかできません。

(1)と(2)の両方の譲渡益がある場合には、特別控除額は両方合わせて50万円が限度で、(1)の譲渡益から先に控除します。

【取得費が不明の場合】
売却収入の5%を取得費として申告する必要があります。購入時の書類を紛失してしまいますと、税負担が増えてしまうことがありますので、書類の保管には注意が必要です。

【確定申告が不要になるケース】
総合課税の譲渡所得は、所得金額の計算上、特別控除50万円を控除することとされており、年間50万円を超えない限り、確定申告をする必要はありません。

また、給与所得者(給与年収2,000万円以下の年末調整対象者に限る)で給与所得以外の所得金額の合計額が20万円(金地金の売買の場合は特別控除控除後)以下に該当すれば、所得税の確定申告が不要です。ただし、住民税の申告は必要になります。

金地金の売買 損失が出た場合

金地金の売買による損失については、その所得区分に応じ、次のように取り扱われます。

①譲渡所得に該当する場合
単発の金地金の譲渡の場合は「生活に通常必要でない資産」の譲渡と考えられるため、その譲渡損失は他の所得との損益通算はできません。ただし、譲渡所得内において他の所得と通算することができます。

②事業所得に該当する場合
他の所得と損益通算をすることができます。青色申告の個人は、売却損が控除しきれない場合、控除しきれなかった額を翌年以降の3年間で各年の所得と相殺することができます。
 
③雑所得に該当する場合
雑所得以外の所得との通算はできません。ただし、雑所得内においての他の所得と通算することができます。

その他留意点とまとめ

【消費税の取り扱い】
金地金の売買取引は消費税の課税の対象になりますが、消費税の課税事業者に該当しない場合、消費税の申告は必要ありません。
サラリーマンなどの給与所得者等の個人についても消費税の申告は不要です。
消費税の課税事業者に該当し金地金の売買が事業認定されるケースについては、消費税の申告計算に含める必要があります。

【支払調書】
支払調書は、支払の明細を記入して税務署に提出を義務付けられている法定調書のひとつです。金地金の取引では「金地金支払調書制度」により、1回の取引額が消費税込で200万円を超えると業者が税務署へ支払調書を提出しなければなりません。そのため、金地金の売却益が発生しているのにかかわらず、確定申告をしていないとこの支払調書から足が付き、後日税務署から申告漏れの指摘を受けることがあります。

金地金の売買は意外と課税関係が複雑です。判断に迷うことがあれば、専門家に相談されることをおすすめします。

記.名古屋業務2課