2021/11/07

問題なく役員に退職金を支給する方法

支給するための手続きと損金算入時期

1.前提について
まず、当然の前提として退職しているという事実が重要です。会社の重要事項の決定や業務の遂行には関与することが出来ないということが原則です。
したがって、形式上は退職したにもかかわらず退職後も会社に対して大きな影響力を与えているような場合には、実質は退職していないものとして税務上、退職金としての支給が否認される可能性があります。

2.手続きについて
具体的な金額を決定し、それを支給するということを株主総会で決議する必要があります。
※条件付きで取締役会に一任することも可能です。

中小企業において、株主は特定の親族で構成されていることが多いと思います。あえて株主総会を開かなくても日々の話合いが株主総会のようなものになっていることが想像できます。しかし、実際に株主総会を開催し退職金について決議をしたうえで、その内容についての議事録を残す必要があります。
法人税法上は役員退職金を損金算入する要件として、議事録の作成は求められていません。ですが、会社法上では作成が求められていることから、その作成は必須となります。

3.損金算入時期について
法人税法では債務が確定した(支払うことが確定した)ものを損金に算入します。そのため、退職金については正式な手続きを経た(株主総会の決議で決定された)ものが債務として認められ、損金となるのです。
損金の算入時期は以下のとおりになります。

(1) 確定日基準(原則)
原則は、株主総会等で決議され、支給額が具体的に確定した事業年度に計上します。

(2) 支払日基準(例外)
退職金を実際に支払った年度で損金経理したときは、その事業年度の損金にすることも出来ます。
退職金を分割支給した場合は、実際に支給する都度分割して経費算入することも可能です。

支給金額の計算方法

次に支給金額はいくらにすべきでしょうか。

法人税法上は「不相当に高額な部分の金額」については法人税の計算上損金として認められません。
それでは相当の金額はいくらかということですが、これも退職した役員の貢献度、勤続年数、地位等を考慮して総合的に決定されるものですので、普遍的な適正額を算出することは非常に困難です。
そこで実務上は「功績倍率法」という方法で計算するのが一般的となっています。功績倍率法では以下の算式により適正額を計算します。

役員退職金の適正額 = 退職時の報酬月額 × 役員としての勤続年数 × 功績倍率

功績倍率の一般例
代表取締役 3.0倍
専務取締役 2.5倍
常務取締役 2.0倍
取締役   1.5倍

上記の功績倍率はあくまでも参考であり、法律で規定された数値ではない点に注意が必要です。例えば代表取締役の退職金について功績倍率が3.0倍以下であっても否認のリスクはゼロではありません。そのため、法人の経営状態などとのバランスを考慮して支給額を決定する必要があります。

じゃあ、退職金をたくさん出したいから報酬月額を大きく設定すればいいじゃないか、という話も出てくると思いますが、それは役員報酬自体の適正額の問題にもなりますので注意が必要です。

逆に、役員報酬の金額を極端に低く設定していた場合には少ししか退職金を出せないのかというと、必ずしもそういうわけではありません。適正であることを示す要素をそろえることができればOKです。

役員退職金を受け取った側の所得税

退職金の支給を受けた側では、所得税が課されることになります。また、その受け取り方により課税方法が変わってきます。具体的には一時金として受け取るのか、年金として受け取るのかで、退職所得もしくは雑所得で課税されることになります。
一時金として受け取る場合は退職所得となり、以下の算式で計算されます。

退職所得 =(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2※
※役員としての勤続年数が5年以下の場合は×1/2しない金額
※令和4年分より、役員以外の者(従業員等)については、勤続年数が5年以下の場合に×1/2しない部分ができるようになります。収入金額から退職所得控除額を控除した残額のうち、300万円までの金額については今までどおり×1/2した金額とします。そして、300万円を超える部分については×1/2しない金額となります。

退職所得控除額は勤続年数により変化します。

勤続年数が20年以下の場合 : 40万円 × 勤続年数。
20年超の場合 : 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

上記の算式で計算した退職所得の金額に税率を乗じて所得税を計算します。
この場合、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出することになります。

次に年金として受け取る場合は、雑所得として次の算式で計算されます。

雑所得 = 収入金額 - 公的年金等控除額

上記で計算した雑所得と他の総合課税の所得とを合算したものに税率を乗じて所得税を計算します。どの受け取り方が有利となるかは、その時の状況により異なるので検討が必要となります。
以上のように、役員退職金は支給する法人にも受け取る個人にも十分メリットがあります。ただ、支給をする場合には少し準備が必要であるという点にご注意ください。

記.大阪事務所2課