2021/11/01

電子帳簿保存法の電子取引について

再確認!電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法は、申告所得税や法人税などの各税法においてその保存が求められている帳簿書類について、今までは紙ベースで保存していたものを、一定の要件を満たせば電子データで保存できるようになったことや、メールやWEBなどを通じてやりとりした取引情報(請求書や領収書などに通常記載される情報)の保存義務などを定めた法律です。

電子帳簿保存法には大きく次の3つの区分により、保存方法などの取扱いを定めています。
(1)電子帳簿等保存 … 電子データとして作成した総勘定元帳や仕訳帳などを保存
(2)スキャナ保存  … 紙で受領・作成した請求書や領収書などを電子(画像)データとして保存
(3)電子取引    … メールやWEBなどを通じてやりとりした取引情報を電子データとして保存

令和4年1月1日に施行される令和3年度税制改正による「改正電子帳簿保存法」では、「電子帳簿等保存」や「スキャナ保存」の事前承認制度が廃止されたり、保存要件が緩和される一方で、「電子取引」による取引情報については紙ベースでの保存が認められなくなります。
今まで請求書や領収書などのPDFデータをメール添付で受取った場合、紙に印刷してファイリングしていれば、申告所得税や法人税での帳簿書類の保存要件を満たしていたものが、年明けからはそれだけでは満たさなくなってしまう、ということになります。
では保存要件を満たさない場合にどういった影響があるかというと、通常、法人や個人事業者は青色申告の承認を受け、欠損金の繰越しや各種の特別償却・特別控除などといった「税法上の特典」を受けていますが、「青色申告の要件となっている帳簿書類の保存が出来ていないものとして、青色申告の承認が取り消される可能性がある」ということが、国税庁が公開している「電子帳簿保存法一問一答」というQ&Aに記載されています。

<電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】>
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_03.pdf

実務上は、保存要件を満たしていない→即取消し!ということではなく、事務運営指針に基づき、総合的に勘案して判断するようですが、今後は法人・個人事業者問わず、
メールやWEBなどを通じて取引情報をやりとりした全ての事業者において、保存義務を満たすように対応していく必要があります。
ちなみに帳簿書類の保存は消費税の仕入税額控除の要件にもなっていますが、消費税法上では年明け以降も今まで通りの紙ベースの保存が認められます。
とはいえ青色申告も仕入税額控除も受けるためには、結局、電子取引による取引情報については要件を満たした上でデータ保存しなければならない、ということになります。

電子取引に係る令和3年度改正の内容

タイムスタンプ要件、検索要件などの緩和

電子取引(メールやWEBだけでなく、USBメモリを介してやり取りしたり、FAXのデータ化機能も含まれます。)による取引情報については、基本的にそのままデータ保存するだけでは保存要件を満たしません。
電子取引の保存要件を満たすためには、「真実性」と「可視性」を確保することが必要です。
具体的には次の通りです。

(1)真実性の要件
次の措置のいずれかを行うこと
① タイムスタンプが付された後に、取引情報の授受を行う
② 取引情報の授受後、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく
③ データの訂正・削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正・削除ができないシステムを利用
④ 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程(Q&Aの中にひな形があります。)を定め、その規定に沿った運用を行う

(2)可視性の要件
① 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限ります。)
② 見読可能装置(ディスプレイなど)の備付け等
③ 次の検索機能の確保
(イ)記録項目(取引年月日、取引金額、取引先)により検索できること
(ロ)日付又は金額の範囲指定により検索できること
(ハ)2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること

今回の改正では、その保存要件について次のように変更されています。
・(1)②におけるタイムスタンプの付与期間について「最長約2か月+概ね7営業日以内」とされます。
・(2)③における検索機能の確保について、税務職員からの電子データのダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、(ロ)と(ハ)が不要になります。
・保存義務者が小規模事業者(基準期間(※)の売上高が1千万円以下の事業者)でダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索機能の全てが不要になります。
※ 基準期間とは、個人事業者については電子取引が行われた日の属する年の前々年、法人は電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度をいいます。

適正な保存を担保する措置として、次の見直しがされます。

(1)申告所得税及び法人税における「電子取引」による取引情報の電子データについては、冒頭で触れましたように、紙ベースでの保存に代える措置が廃止されます。
(2)「電子取引」による取引情報の電子データについて、隠蔽・仮装された事実があった場合に、その事実に関し生じた申告漏れなどに課される重加算税が10%加重(35%→45%)されます。

改正への対応と注意点

国税庁が公開している「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」を参考に、次のような対応が必要になってきます。

1.電子メールに取引情報がPDFなどの形式でデータ添付されている場合はそのデータを、電子メール本文に取引情報が記載されている場合はその電子メール自体を、保存要件を満たした上で電子データとして保存しなければなりません。

2.WEBサイトやクラウドサービスなどから請求書や領収書をダウンロードする場合に、一定期間経過後はダウンロードできなくなることもあります。国税庁が公開しているQ&Aに記載はありませんが、なるべくダウンロードできる期間内にダウンロード(スクリーンショットも可)して保存しておくのが無難だと思います。

3.取引情報(例えば見積書)のデータを複数回授受する場合は、次のように取り扱うようです。
(1)単純な金額などの記載間違い       … 訂正後の見積書のみ保管でOKです。
(2)金額交渉で見積書を複数回受領した場合  … 全ての見積書データを保管する必要があります。
(3)複数の相手先から相見積もりを取った場合 … 全ての見積書データを保管する必要があります。
(4)全く同じデータが複数ある場合      … いずれか1つの保存でOKです。

4.従業員が個人のスマホアプリなどで会社の経費を立て替えた場合には、従業員から取引情報のデータ(スクリーンショットも可)を受け取り保存することが望ましいですが、一定期間従業員のPCやスマホに保存しておくことを条件としたうえで、会社がその保存状況を管理する方法も認められます。

5.電子取引の取引情報の電子データは、受け取った側だけでなく送った側も同様に保存義務があります。しかし、電子データと紙(例えば請求書)の両方を交付した場合に、紙の方を原本として、データが紙の原本の内容確認程度に交付したものであれば、データの方の保存義務はありません。

上記以外にも対応すべき事項が数多くありますので、是非「電子帳簿保存法一問一答」をご一読頂ければと思います。

最後に、今回のように税制改正への対応はいつもパワーが必要ですが、前向きに捉えると経営改善のきっかけの1つと考えられます。

ペーパーレス化、リモートワーク推進や業務フローの見える化など、電子帳簿保存法対応によるメリットは大きな会社ほど享受できそうなものですが、「中小企業者だから関係ない」ではなく、この機会に業務フローや帳簿書類の管理体制などを見直してみてはいかがでしょうか。

記.大阪事務所2課