2021/08/02

個人事業主が自宅でお仕事をする際の税務上の考え方

家事関連費とは?

新型コロナウイルスの猛威が認識され始めてから1年以上経ちましたが、依然として世界中では感染者が多く出ています。耳慣れない「人流」という新しい言葉が生まれたことに象徴されるように、外出自粛や飲食店の営業時間の短縮やテレワークの導入の推奨等、人同士で対面する機会はかなり減りました。
個人事業主の方は、以前にも増してご自宅でお仕事をされる機会が増えたのではないでしょうか。

個人事業主の支出には、仕事上のものと、プライベートのもの(税務上、家事上の経費といいます)と、両方混ざったもの、の3種類の支出があります。この仕事上のものとプライべートのものが混ざって支出される経費のことを「家事関連費」といいます。代表的なものは、ご自宅でお仕
事をなさっている方が支払う家賃、水道光熱費、電話代、保険料、ガソリン代です。

この家事関連費は、原則として必要経費とすることはできません(所得税法45条1項1号)。ただし、所得税法施行令96条1項1号2号に規定されている要件を満たせば経費にすることができます。

所得税法施行令96条1項1号
 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、
山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その
必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該
部分に相当する経費

所得税法施行令96条1項2号
前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

業務遂行上必要であるかどうかについては、「業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する」と規定されています(所得税基本通達45-1)。また、主たる部分が当該業務の遂行上必要であるかについては、「業務遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない」と規定されています(所得税基本通達45-2)。

青色申告者については、「主たる部分」という要件が外されていますので、白色申告者より経費にできる範囲が広いように思えますが、必要
部分が区分できる場合は、白色申告者だからといって必要経費算入を認めないとするのは不合理なため、実際上は白色申告者についても青色申告者と同様の扱いを受けることとなります。

つまり、業務に必要である部分が明らかに区分できれば、必要経費とすることが認められていることになります。

では、どのように区分をすれば良いのでしょうか?

合理的な基準

業務の遂行上必要な部分の区分については、一般的に「合理的な基準」により必要経費と家事上の経費を区分する方法で行います。

この「合理的な基準」について、特に規定はありませんが、一般的に以下の方法が使われています。

地代家賃や火災保険料や地震保険料
→床面積比で区分

水道光熱費や通信費
→事業に使用した割合(以下、事業使用割合といいます)で区分

ガソリン代や自動車保険料や自動車税の車両関連費
→事業使用割合で区分

例えば、お仕事で使う時間が平日の8時間とすると、事業使用割合は、「8/24(時間)×5/7(日)=事業使用割合約25%」となります。
今回は、説明の一例として時間を基準に用いていますが、使用頻度等を用いても構いません。

上記のように、家事関連費は一律でいくらまで必要経費に入れてもOKという規定や、厳密にこう計算するという規定はありませんので、常識的な範囲内でいくら必要経費に算入したかどうかを客観的に説明できるような計算と根拠が必要となります。

注意点

上記までに、一般的な方法をご紹介してきましたが、注意点が一つあります。
それは、「持ち家の場合で、住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)の適用を受けている場合」です。

なぜなら、住宅ローン控除の適用要件に「床面積が50平方メートル以上であり、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること」という規定があるからです。
※一定の要件を満たすと40平方メートル以上も対象となる場合がありますので、ご注意ください。

よって、事業使用割合が50%超の場合は、住宅ローン控除を受けられなくなってしまいます。また、50%未満の場合でも、住宅ローン控除は居住部分にのみ適用されることになります(租税特別措置法施行令26条6項)。

ただし、「居住の用に供される部分の床面積が90パーセント以上であるときは、全部がその者の居住の用に供する部分に該当するものとして、住宅ローン控除を適用できる」という規定(租税特別措置法関係通達41-29)がありますので、事業使用割合が10%未満であれば、住宅ローン控除を全額受けつつ、必要経費も算入することができます。

記.東京事務所2課