2021/01/19

コロナ禍による給与の自主返納・辞退について

臨時改定事由に該当する役員給与の例

原則的に役員給与は法人税法上毎月定額で設定しなければ損金にできません。
ですが、新型コロナによる特例措置が出る以前から「臨時改定事由」と「業績悪化事由」に該当する内容で役員給与を減額するのであれば、期中に役員給与を変動させても定期同額給与の要件を満たすこととなっていました。
ただし、期中の3か月間だけ役員給与を減額するというような場合には、「臨時改定事由」または「業績悪化事由」に該当する必要があります。
臨時改定事由に該当するためにはその役員の職制上の地位の変更、その役員の職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情が必要です。業績悪化事由に該当するためにはその事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したこと等の事情が必要です。

たとえばコロナ禍においては、役員が営業活動や店舗管理などで重要な役割を果たしているような場合で新型コロナの影響による営業自粛や外出自粛などでその職務の一部が執行できないというような場合が臨時改定事由に該当すると考えられます。
この場合、その職務の一部を執行できない状況に合わせて役員給与を減額し、その後職務を執行できるようになった状況に合わせて支給額を増額することは臨時改定事由による減額改定及び増額改定と認められ、役員給与の損金不算入額は生じないと考えられます。

自主返納した場合の取扱いについて

一旦受領した役員給与を自主返納した場合は、どのような取り扱いとなるのでしょうか。
臨時改定事由や業績悪化事由に該当しない手続きではなく役員が自主的に返納する場合です。
法人税法上は役員給与の支給額に変動はないため、定期同額給与には影響しません。
また、役員給与の支給自体はあるため、返納分についても源泉所得税や社会保険料を徴収する必要があります。
月額100万円の報酬の内50万円を返納したとした場合、返納していても社会保険料と源泉所得税は100万円で計算された金額を徴収されているので、差額の50万円に係る部分は役員の自己負担となってしまいます。

自主返納された金額は法人側で雑収入として計上することとなります。役員のお気持ちは汲み取らせていただきますが、役員自身の個人負担分は発生することとなるため、臨時改定事由に該当しない場合は慎重に行うようにしてください。

受領する前に辞退した場合の取扱いについて

受領する前に辞退した場合の課税関係がどうなるのかについてですが、この場合は役員給与の支給期到来前に辞退の意思を表示して辞退したのか、支給期到来後に受領を辞退したのかで取扱いが違ってきます。

支給期到来前に一部または全部を辞退した場合、受領していないこととなるので実際に受領することとなった役員給与の金額から計算することとなります。
法人税上は定期同額給与の要件は満たさないこととなり、役員給与の損金不算入部分が発生します。
所得税法上の給与の支給時期とは、給与所得の収入金額の収入すべき時期である一方、法人税法上の支給時期とは、実際に支払った時期を意味するものではなく、債務の確定を意味するものとなっています。
未払い給与についても支給時期が到来していれば要件を満たしますが、支給期の到来前に受領を辞退した場合には債務自体が発生していないこととなるため、その辞退した金額は役員給与を支給したこととはならず定期同額の要件を満たさないので注意が必要です。
支払期限到来後に受領を辞退した場合は、役員給与を支給したこととなるため、定期同額給与の要件は満たすこととなりますが一方で会社側は、役員給与の支払債務の免除を受けたこととなり、原則として、免除を受けた時をその支払の時期として源泉徴収をしなくてはなりません。

取扱いとしては先ほどの自主返納した場合と同じとなってしまいます。例外として認められる場合は「業績不振のため会社整理の状態に陥り、債権者集会等の協議決定により債務の切捨てを行った」等特殊な事情にのみ限定されているため、適用できるケースはかなり限定的となっています。
受領辞退の場合は、所得税か法人税のどちらかで課税上の問題が生じてしまいます。
受領辞退の意思表示を支給期限到来前にするのか後にするのかで調整することが可能ということになりそうです。

記.東京事務所2課