2020/05/13

国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例

節税スキーム

そもそも海外不動産による節税スキームとは、簡単に言うと国外の中古不動産を購入して多額の減価償却費を計上し、損益通算によって所得税率を低くするというものです。

例えば木造住宅であれば法定耐用年数は22年とされていますが、築22年を超えた木造住宅を購入した場合、「簡便法」を使用することで耐用年数は4年となり、1億円の物件であれば年間2,500万円もの減価償却費を計上できます。
こうして不動産所得で赤字を出し給与所得等と損益通算することで所得金額が小さくなります。
耐用年数を経過し減価償却費が計上できなくなった後、物件を売却する時には譲渡所得税がかかりますが、一般的に富裕層であれば所得税よりも低い税率での課税となり全体としての税負担が減少するというものです。
(所得税の最高税率は55%ですが譲渡所得は分離課税となり、取得して5年内の短期譲渡で所得税30%住民税9%、5年超の長期譲渡で所得税15%住民税5%となります。)

国外中古建物の不動産所得に係る損益通産等の特例とは①

この節税スキームは以前から
「住宅を建築してから滅失するまでの期間及び戸建て住宅の資産価値は日本とアメリカ合衆国、英国等では大きく異なっている」
として中古資産の耐用年数の簡便法を適用するのは合理的ではないとされておりました。
耐用年数を見ても、日本の中古資産の場合は4、7、9年が多く使われていますが、米国の法令では新築、中古を問わず居住用は27.5年とされています。

そして令和2年度税制改正においてこの節税スキームが封じられることとなりました。
それが「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」になります。

以下、令和2年度税制改正より
①個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。

(注1)上記の「国外中古建物」とは、個人において使用され、又は法人において事業の用に供された国外にある建物であって、個人が取得をしてこれをその個人の不動産所得を生ずべき業務の用に供したもののうち、不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算する際の耐用年数を次の方法により算定しているものをいう。

1 法定耐用年数の全部を経過した資産についてその法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とする方法

2 法定耐用年数の一部を経過した資産についてその資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数を耐用年数とする方法

3 その用に供した時以後の使用可能期間の年数を耐用年数とする方法
(その耐用年数を国外中古建物の所在地国の法令における耐用年数としている旨を明らかにする書類その他のその使用可能期間の年数が適切であることを証する一定の書類の添付がある場合を除く。)

(注2)上記の「国外不動産所得の損失の金額」とは、不動産所得の金額の計算上生じた国外中古建物の貸付けによる損失の金額
(その国外中古建物以外の国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額がある場合には、当該損失の金額を当該国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額)をいう。

節税スキームで説明した例では、簡便法により求めた年数を耐用年数としている為、減価償却費として計上していた2,500万円のうち、国外不動産の赤字部分については減価償却費が生じなかったものとみなされることになります。
これにより国外資産の減価償却によって生じていた不動産所得の赤字が発生しないことになり、損益通算によって所得金額を小さくすることもできなくなります。

国外中古建物の不動産所得に係る損益通産等の特例とは②

以下、令和2年度税制改正より
②上記①の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとされる償却費の額の累計額からは、上記①によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額を除くこととすることその他の所要の措置を講ずる。

譲渡所得の計算は譲渡所得=収入金額ー(取得費+譲渡費用)で計算されます。
これまでは取得費から減価償却を控除して計算していましたが、今回の改正により「生じなかった」とみなされる減価償却費については取得費から控除しないこととなりました。

これにより減価償却費に計上されなかった金額は取得費とされるため、減価償却費とされなかった部分がなくなるわけではありません。

この特例は令和3年分の所得税から適用されるため、令和2年分の所得税の計算上は今まで通り減価償却費の経費計上、損益通算が可能です。