2020/04/29

使用しなくなった固定資産について

減損会計

会計の考え方は、固定資産などの、モノ自体の機能は低下していなかったとしても、そのモノが将来の収益の獲得に貢献しなくなったと判断された場合、そのモノに投資した資金を回収できなくなったと考え、そのモノの帳簿上の価値を下落させるように損失を計上する処理をします。
これを、「減損」と呼びます。将来の収益の獲得に貢献しなくなったと判断された場合とは、会計基準に定められた一定の条件を満たした場合をいいます(固定資産の減損に係る会計基準)。
「減損」は、過去の経営判断の失敗を意味するネガティブな側面もありますが、資産効率の改善、減価償却費の減少による将来の利益の増加などのポジティブな側面もあります。

法人税上の減損会計の取り扱い

会計上、固定資産の「減損」を行ったからといって、これがそのまま法人税法上の損金に計上されて、法人税の負担額が減るとは限りません。
法人税法上は、固定資産の評価損(「減損」は評価損の一種です)は原則として認められず(法人税法第33条1項)、次のような特定の事実が生じた場合にのみ認められます(法人税法第33条2~4項、法人税施行令第68条1項3号、法通達9-1-16)。

1.災害により著しく損傷した。
2.1年以上にわたり遊休状態にある。
3.本来の用途に使用できないため他の用途に転用した。
4.その資産が所在する場所の状況が著しく変化した。
5.会社更生法等の規定による更生手続開始の決定等があったことにより、評価損を計上する必要が生じた。
6.その他上記に準ずる特別な事実が生じた。

したがって、過度の使用や修理の不十分等による損耗や、技術革新によって旧式化してしまった場合は、評価損を計上することはできません(法通達9-1-17)。

なお、非償却資産である土地が1年以上遊休状態にある場合、上記の(2)に当てはまるように見えますが、評価損の計上が認められない場合があります(平15.1.28裁決、裁決事例集No.65 401頁)。

除却

では、上記に挙げた条件に当てはまらなければ、固定資産の評価損を計上することで、法人税の負担額を減らすことはできないのでしょうか。
法人税には、除却という規定があります(法人税基本通達7-7-1)。
これは、取り壊した場合や廃棄した場合に損失を計上するというものです。
除却は廃棄が前提となっている規定ですが、モノによって廃棄には多額の費用がかかってしまう場合があります。このような場合を想定して、法人税には有姿除却という規定があります。

有姿除却

有姿除却とは、次に掲げるような場合に、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、除却損として損金の額に算入することができるという規定です(法人税基本通達7-7-2)。

(1)その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産。
(2)特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの。

上記に該当するかどうかは、個々の状況によって判断します。

また、ソフトウェアの場合は、物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合であっても、次に掲げるように、今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、損失を計上できます(法人税基本通達7-7-2の2)。

(1) 自社利用のソフトウエアについて、そのソフトウエアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合、又はハードウエアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウエアを利用することになり、従来のソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合
(2) 複写して販売するための原本となるソフトウエアについて、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内りん議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合

例えば、今年の1月にwindows7のサポートが終了しましたが、windows7でしか使えないソフトウェアは、実際に廃棄を行っていなかったとしても、損失を計上できます。

有姿除却の注意点

有姿除却は、実際にはまだモノがある状態で損失を計上することになりますので、客観的に有姿除却したことを証明できる資料などを保管しておくことが、税務調査上重要になります。
例えば、機械運転日報、稟議書・取締役会議事録、使用の中止に至った経緯からその固定資産の内容や現況や、転用を含めた再使用の可能性について検討した書類、実際に除却した際の様子を日付入りの写真に撮って保管しておくことが必要になります。
なお、有姿除却した後に、こっそり稼働させるのは脱税になりますので、ご注意ください。