2020/03/01

居住用財産を買い換えた時の特例

趣旨

マイホームの売却は、買換え目的で⾏われる場合も多々あると思います。
この場合に売却利益に課税されてしまうと次の取得に際して資金が目減りしてしまい制約を受ける事になります。このようなときに売却益への課税を繰延べる買換えの特例という規定を利用することにより問題解決を図ることができます。

買換えの特例は、下記の適用条件を満たしたうえで特定のマイホームを令和元年12月31日までに売って代わりのマイホームを取得した場合に適用を受けることが出来ます。
ただし、譲渡資産の対価の額が2 億円以下であることの要件を満たす必要があります。

譲渡資産の要件

次に掲げる居住用財産で譲渡した年の1 月1 日における所有期間が10 年を超えるもの。
(1)自分の居住の用に供している住宅で居住期間が10 年以上のもの。
(2)以前に居住していた住宅や敷地で、居住の用に供されなくなった日から3 年目の年の12月31 日までに譲渡されるもの。
(3)災害によって住宅が滅失した場合において、その住宅を引き続き所有していたとしたならば、その年の1 月1 日における所有期間が10 年を超えるその住宅の敷地。

買換取得資産の要件

自⼰の居住の用に供される家屋又はその敷地で国内にあるもののうち、以下に掲げるもの。
(1)譲渡資産の譲渡をした年の前年の1 月1 日から譲渡した年の12 月31 日までの間に居住用の住宅やその敷地を取得すること。※
(2)マイホームを売った年の前年から翌年までの3 年の間に買換えを⾏い下記の一定期間の居住要件を満たすこと。
売った年かその前年に取得した場合…売った年の翌年12 月31 日
売った年の翌年に取得した場合…取得した年の翌年12 月31 日
(3)取得する住宅は、床面積が50 ㎡以上かつ土地が500 ㎡以下のもの。
(4)買換えにより取得するマイホームが耐⽕建築物の中古である場合には25 年以内に建築されたものであること。(平成17 年4 月1 日以後取得する耐⽕建築物である中古住宅で一定の耐震基準を満たすものは建築年数の制限はありません。)

※ 確定申告書に買換資産明細書を添付すれば、譲渡した年の翌年12 月31 日まで1 年延長可能。

この特例を受けるには次ような注意点があります。
(1)この譲渡につき3,000 万円の特別控除の特例など他の特例を受けていないこと。
(2)譲渡の相手先が、その譲渡者の親族及び特殊な関係のある法人、その他一定のものである場合には適用されません。
(3)売った年の前年又は前々年において、居住用財産を譲渡した場合の特例を受けていないこと。

それでは、具体的に買換えを⾏った場合にどのような取扱になるかを、代替資産の価額が譲渡対価より多い場合と少ない場合の計算を例題に従って考えてみましょう。

計算例①
(1)買換えによる譲渡資産の譲渡価額(5,000 万円)< 代替資産の取得価額(6,000 万円) の場合

譲渡価額5,000 万円(土地及び建物の金額の合計額)
譲渡資産の取得価額2,800 万円(土地の金額及び減価償却後の建物の金額との合計額)
譲渡費用200 万円
代替資産の取得価額6,000 万円(土地4,200 万円、建物1,800 万円)

以上の場合には、通常5,000 万円 - (2,800 万円 + 200 万円)= 2,000 万円の譲渡益に対して課税されるか、又は要件を満たせば3000 万円の特別控除を受けるか選択して税金の計算をすることになりますが、買換えの場合にはこの譲渡益2,000 万円を課税せずに買換えにより取得した資産の取得価額を圧縮することにより課税の繰延べ(先送り)を⾏います。

(2)代替資産の取得価額の計算
(2,800 万円 + 200 万円) + (6,000 万円 - 5,000 万円)= 4,000 万円
譲渡所得の計算における譲渡費用 代替資産の取得価額を超える譲渡金額部分
① 土地の取得価額4,000 万円 × 4,200 万円 ÷ 6,000 万円 = 2,800 万円
② 建物の取得価額4,000 万円 × 1,800 万円 ÷ 6,000 万円 = 1,200 万円
合計 4,000 万円

実際には、代替資産の取得価額は6,000 万円ですがこれを4,000 万円と今回の譲渡益分だけ少なくすることにより、将来この代替資産を譲渡したときに今回の譲渡益を含めて利益を算出し課税を受けることになります。

計算例②
(1)買換えによる 譲渡資産の譲渡価額(6,000 万円)> 代替資産の取得価額(5,000 万円) の場合

譲渡価額6,000 万円(土地及び建物の金額の合計額)
譲渡資産の取得価額3,400 万円(土地の金額及び減価償却後の建物の金額との合計額)
譲渡費用200 万円
代替資産の取得価額5,000 万円(土地3,500 万円、建物1,500 万円)

(2)譲渡所得の計算
本来、譲渡益は 6,000 万円 -( 3,400 万円 + 200 万円)=2,400 万円ですが、この特例を適用すると次のように計算されます。
① 収入金額 6,000 万円 - 5,000 万円 = 1,000 万円
② 必要経費 (3,400 万円 + 200 万円) ×( 1,000 万円 ÷ 6,000 万円) = 600 万円
③ 譲渡所得 ① - ② = 400 万円

このように400 万円分が譲渡所得として課税されて、買換え特例適用により残り2000 万円の譲渡益は代替資産の取得価額を圧縮して繰延べられることになります

(3)代替資産の取得価額の計算
(3,400 万円 + 200 万円) + (5,000 万円 - 6,000 万円 + 400 万円)= 3,000 万円
譲渡所得の計算における譲渡費用 代替資産の取得価額を超える譲渡金額部分(課税された譲渡益を除く)
① 土地の取得価額3,000 万円 × 3,500 万円 ÷ 5,000 万円 = 2,100 万円
② 建物の取得価額3,000 万円 × 1,500 万円 ÷ 5,000 万円 = 900 万円
合計 3,000 万円

実際には、代替資産の取得価額は5,000 万円ですが、本来の譲渡益2,400 万円のうち課税される400 万円を除いた2,000 万円分だけ取得価額を圧縮して、これを3,000 万円とすることにより、課税の繰延べがされることになります。