2019/09/04

配偶者居住権の創設

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、妻が相続開始時に居住していた、被相続人所有の建物に終身又は一定期間住み続けることを法律で認めるというものです。

例えば夫を亡くし、子が一人いる妻がいたとします。

悲しい話ですが親子間の仲が良くないこともあると思います。

何らかの理由があり相続財産の分割協議でもめて、妻が自宅を相続できなかった場合、これまでは住む家を失うところでした。

また自宅を妻が相続するため、他の預貯金等の相続財産を子が相続することとなった場合も、住む家はあるものの生活費がない、という状況になってしまいます。

配偶者居住権の制度が施行されることによって、残された妻が相続財産である自宅にそのまま無償で住み続けられる権利を得ることとなります。

配偶者居住権は遺産分割協議書や遺言等によって設定が可能です。

ただし、相続財産である自宅が妻以外の人との共有財産(子等)である場合は適用できませんので、注意が必要です。

2020年4月1日以後に開始する相続から適用されます。

具体的な例を挙げてご説明していきたいと思います。

配偶者居住権施行前後の具体例

例)相続人が妻と子一人、遺産が自宅2,000万円と預貯金3,000万円
  妻と子の相続分は1:1とします。

・現行制度の場合、妻は自宅に住み続けたいので妻と子の相続分は

 妻:自宅2,000万円、預貯金500万円(合計2,500万円)

 子:預貯金2,500万円

上記の通りとなり、妻は自宅が残るものの老後の生活費が不安です。

・配偶者居住権制度導入後は、下記のような分け方が可能です。

 妻:配偶者居住権1,000万円、預貯金1,500万円(合計2,500万円)

 子:負担付き所有権1,000万円、預貯金1,500万円(合計2,500万円)

妻は住む家を失うことなく、老後の生活費にも余裕を持たせることができました。

住む権利と所有する権利を妻と子で分けて相続するイメージです。

また、将来的に妻が亡くなった場合、配偶者居住権は消滅します。

子への二次相続が発生した場合に、配偶者居住権部分の相続税の課税関係は生じません(相続税法基本通達9-13の2)。

では、配偶者居住権とはどのように計算すればよいのかをご説明していきたいと思います。

配偶者居住権の価値評価方法

配偶者居住権の価値評価の計算方法は下記の通りです(相続税法23の2)。

・配偶者居住権の価額
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-配偶者居住権の存続年数)÷残存耐用年数×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

・建物所有権の価額
建物の時価-配偶者居住権の価額

・配偶者居住権に基づく敷地利用権の価額
土地等の時価-土地等の時価×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

・敷地所有権の価額
土地等の時価-敷地利用権の価額

配偶者居住権の価額は、建物敷地の現在価額(固定資産税評価額)から、負担付き所有権の価額(配偶者居住権が設定された所有権の価額)を差し引いた金額となります。

負担付き所有権の価額は建物の耐用年数、築年数、法定利率等を考慮し配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定した上、これを現在価額に引き直して求めることとされています。

具体的な一例としては、建物敷地の現在価額が4,200万円として、負担付き所有権の価額が2,700万円の場合、配偶者居住権の価額は1,500万円となります。

妻は自宅に住み続けることができ、上記の例ではその価額を4,200万円から1,500万円(約35%)まで圧縮することが可能となります。

最近、終活という言葉をよく耳にします。

ご自宅の持ち分がどうなっているのかを確認し、誰に何をどう残したいか、考えていただく機会になればと思います。