2019/08/01

損害賠償金を受け取った場合の所得税の課税

損害賠償金を受け取った場合の所得税の扱い

非課税とされる損害賠償金等

所得税法第9条に非課税所得の規定があり、損害賠償金についても1号17項に以下の通り定められています。

損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他政令で定めるもの」は、所得税を課さない。

不動産所得、事業所得の収入金額とされる損害賠償金等

所得税法施行令第30条及び第94条にて、以下のものは非課税所得から除かれると示しています。

損害を受けた者の各種所得の計算上「必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合」には、当該金額。

たな卸資産、工業所有権等の権利、著作権につき損失を受けたことにより取得する損害賠償金等で、不動産所得、事業所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するもの。

業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの。

資産損失の必要経費の扱い

所得税法第51条にて、不動産所得、事業所得を生ずべき事業の用に供される固定資産等について、取りこわし、除却、滅失等により生じた損失の金額は、その損失が生じたい日の属する年分の所得の金額の計算上、必要経費に算入するとありますが、「損害賠償金等により補てんされる部分の金額を除く」と明記されています。

文書回答事例(税理士から賠償金を受け取った場合)

関与税理士から損害賠償金を受け取った場合(要約)

不動産賃貸業を営んでいる個人が、オフィスビルの取得を予定していたため税理士に相談していたが、消費税の簡易課税不適用届出書の提出の話がなく、届出を提出しなかったため、消費税の還付が受けられず、簡易課税制度を適用しないとした場合の消費税の還付相当額と実際の消費税の納付額を損害賠償として関与税理士から受領

その損害賠償金は、所得税の非課税所得に該当せず、不動産所得に係る総収入金額に含めるべきものとして解してよいかの照会。

=事案=

・不動産賃貸業で、平成23年以前から簡易課税で消費税申告

・平成24年に新たにオフィスビル取得を予定し、関与税理士にも相談。23年中に簡易課税不適用届を提出すれば、ビルの取得に係る消費税等の一定額の還付を受けることができたにもかかわらず、関与税理士はその旨の説明がなかったため、平成24年1月から12月まで簡易課税にて消費税の申告及び納税。

・関与税理士に損害賠償請求を行い、平成30年中に関与税理士と損害賠償額について合意し、同年中に金額を受領。

・消費税は「税抜方式」を適用しており、ビルの取得の消費税額について「資産に係る控除対象外消費税額等の必要経費算入の特例」の規定に基づき、平成24年のほか、平成25年から29年までの各年に繰り延べて、その全額を不動産所得の必要経費に算入している。

東京国税局の回答(要約)

・一般に税理士が作成した確定申告書に誤りがあり修正申告により税金を納めることとなったとしても、本税については納めるべき税額を納めたに過ぎないため損害が生じていることにはならない。

・本件では、関与税理士の説明不足により簡易課税のまま申告及び納税を行った結果、原則的な制度を適用した場合に還付が受けられたであろう金額につき還付が受けられなくなったため、経済的に損失が生じたといえ、本件金額は、その損失を補てんするものであるから、所得税法施行令第30条第2号に規定する「不法行為その他の突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」に該当すると考えられる。

・しかしながら、税込経理方式又は税抜経理方式の別はあるものの「消費税等の額はその性質上、所得税の課税所得金額の計算に含めるものとされており、負担した消費税等については、必要経費に算入されている」(本件においては、その金額相当額が平成24年から29年分の不動産所得の計算上、その全額が必要経費に算入されている)

・よって本件金額は、「当該必要経費に算入されている金額をその範囲内で補てんするもの」であり、所得税法上、非課税とされる損害賠償金から除かれるものと考える。

・したがって本件金額は、平成30年分の不動産所得の総収入金額に算入することとなる。

その他のケース(税込経理等)ではどうなるのか

1.税理士への損害賠償の事例は、消費税に関するものが多く、このような、簡易課税の不適用届や、課税事業者選択届等の提出失念事例が多いようです。
  
2.今回の文書回答事例では、税抜経理でかつ、資産に係る控除対象外消費税額を繰り延べて不動産所得の必要経費となっている事例ですが、税込経理の場合や、税抜経理でも課税売上割合が高く、控除対象外消費税額が生じない場合はどうなのでしょうか。

東京国税局の回答に「消費税の額はその性質上、所得税の課税所得金額の計算に含めるものとされており、負担した消費税等については、必要経費に算入されている」とあるように、今回の本則課税とした場合と実際の納税額との差額は、上記の場合は、平成24年に必要経費に算入されます。

そのため、税込経理であった場合や、控除対象外消費税が生じないケースにおいても同様の判断となる可能性が高いのではと思われます。

3.実務としては、経験したくないものですが、関与税理士から消費税についての損害賠償金を受け取った個人事業主の方は、その取扱いについて注意頂ければと思います。