2019/07/29

法人成りのメリット・デメリット【税金編】

法人成りとは!?

「個人事業主が手続きを行い、株式会社や合同会社などの法人に成り代わること」です。

もう少し砕いて表現すると
「個人で営んでいた事業を自ら設立した法人(法律で定められた人)で営業をしていくこと」
です。

つまり法律上、個人事業主は法人の役員など(代表取締役など)となり、法人自体は別人格(別の人)として取り扱われることになります。

この個人と法人は別人格というルールにより、同じ事業活動をしていても、個人事業主のままと法人成りした場合を比較した時、支払う税額に大きな差異が出てくるケースがあります。

それでは個人事業を法人成りした場合、どのような税金面でのメリットがあるかを7大メリットとして次にまとめました。

『法人成り』の7大メリット

所得税と法人税の税率が違う

ご存じの方が多いと思いますが、個人にかかる所得税は累進課税(課税所得に応じて5%~45%の税率)です。
それに対して法人にかかる法人税は課税所得800万円以下が15%、800万円超は23.2%の税率です。
つまり課税所得が高ければ高いほど、仮に個人と法人に同じ課税所得があった場合を比較すると法人の方が税金が少なく済みます。住民税、事業税等も含めた税率で考慮しても同様のことが言えます。

給与所得控除

個人事業主では取れなかった給与(生活費として取っていると思いますが…)が、法人の場合、法人から個人へ役員報酬として取れます。
ちなみに個人事業主の場合、生活費は経費になりませんが、法人の場合、役員報酬は一定のルールをクリアしていれば法人の経費になります。
しかも、役員報酬は所得税の計算において、サラリーマンの給与と同じ給与所得の扱いになり、給与所得控除として年収に応じて控除があります。
控除額は65万円~220万円です。個人事業主に認められている青色申告特別控除65万円(※要件あり)と比べても控除額が多く、適用要件もないので税制上有利になります。

所得分散

生計を一にする親族が法人の役員や従業員として受任・勤務している場合に限りますが、適正な金額であれば法人から親族へ役員報酬や給与を経費として支払うことができます。
もちろん個人事業主でも専従者給与の届出を提出することで生計を一にする親族に支払った給与は経費に出来ますが、事業に専従していないと経費に認めないとか専従者給与を1円でも支払うとその親族は控除対象配偶者等や控除対象扶養親族に出来ないといった制約があります。
その点、法人から親族に支払った役員報酬、給与は個人事業者の専従者給与ほどの制約がなく、自由度があるので税制上有利になるケースがあります。

退職金

個人の場合、個人事業主やその親族には退職金を経費として支払うことができませんが、法人の場合、代表者自身やその親族が退職した時に退職金を経費として支払うことができます。
しかも退職金は所得税法上優遇されていて税金がかからない、もしくは他の所得に比べて税額が少なくなる様に配慮されています。
また代表者自身やその親族が死亡した場合においても死亡退職金を法人の経費として遺族に支払うことができます。
死亡退職金はみなし相続財産として、相続税の課税対象に含まれますが、これも税制上の控除があり税金の負担が少なくなるように配慮されています。

経費

代表的なものでは生命保険。個人事業主の場合、いくら生命保険を支払っても最大12万円の所得控除のみになります。
しかし法人の場合は、法改正で全損や半損の保険商品に制約が出てきたとはいえ、個人よりは断然に経費に出来る部分が多くなります。

相続税

個人事業主ご自身が亡くなった場合、事業にかかわる資産、負債のすべてにおいても相続税の課税の対象になってしまいます。
それに比べ、法人の場合は法人所有の資産、負債には直接影響しません。
影響するのは亡くなった経営者の所有する法人株式の持分についてのみが課税の対象になります。
(但し、亡くなった経営者が法人に対して有している貸付金や借入金については相続財産になります。)
また、生前に経営者が所有する法人株式を親族等へ移転することにより、将来の相続税対策をすることも可能になります。

消費税

個人事業で消費税が課税されている状況であれば、法人成りすることにより最大2年間消費税を免税にすることが可能です。
これは法人と個人は別人格のため、設立したばかりの法人は、消費税の納税義務を判定するときの基準になる2期前や前期というものが存在せず、判定すべき期間がないため免税になります。

ただし、資本金が1,000万円以上の新規設立法人、特定期間の課税売上高1,000万円超(課税売上高に代えて支払給与で判定することも可能)、
特定新規設立法人に該当する場合など、消費税が免税にならないケースがありますので注意が必要です。

「法人成り」のデメリット

それでは法人成りのデメリットは何があるでしょうか。

社会保険料の加入義務

法人の場合、役員1人でも社会保険の加入義務が発生します。しかも社会保険料は支払った役員報酬・給料の約3割(※社会保険料の上限あり)が毎月会社の通帳から引き落とされます。
社会保険料の半分は本人負担のため、役員報酬・給料から本人から徴収するとはいえ法人においての負担は大きくなります。
ただ、社会保険料はデメリットばかりではありません。国民年金よりは厚生年金の方が将来受給する年金額が多くなりますし、病気した場合の休業補償は社会保険に加入していないと受給できません。

法人が赤字でも法人地方税均等割額がかかる

法人の場合、法人が赤字でも法人地方税均等割額がかかります。税額は資本金等の額に応じて変わりますが、最低約7万円(年額)かかります。

設立費用がかかる

法人を設立するには、一般的に登記費用・司法書士への報酬等で約30万円ほど費用が発生します。

事務負担の増加

個人申告に比べて法人申告は、提出する書類も増え内容も複雑難解なものになります。
法人の場合、税理士等の専門家に依頼している方がほとんどです。
専門家に依頼しなければいけないため、当然金銭的負担は増えます。

まとめ 「法人成り」する方が良いのか??

最後のまとめになりますが、はたして「法人成り」した方が良いのでしょうか?

個人事業者の方の状況よってケースバイケースにはなりますが、年間所得(青色申告特別控除前)が600万円以上で、消費税の課税事業者の方については「法人成り」をおすすめします。

理由は法人の方が税制面で優遇されているので、デメリットを考慮したとしても税金が減少した結果手残りが増加するケースが多いからです。

また、今回は法人成り(税金編)ということでお金の面だけの視点でお伝えさせてもらいましたが、お金以外(対外的信用、法的責任、事業承継など)の面でも多くのリスク回避を含めて多くのメリットがあります。
(詳細はまたの機会にお伝えさせていただきます。)

現在、ご自身の事業が軌道に乗ってきて、今後、税金を含めたお金の支出をコントロールしながらさらに事業を伸ばしていきたいとお考えの個人事業主の方は税理士等の信頼のおける専門家に「法人成り」について相談してみてはいかがでしょうか。