2019/06/09

実家の売却で生前と相続後の税金的な違いについて

相談事例

築50年の実家で1人暮らししていた母が2年前から要介護認定を受けて有料老人ホームに入居しました。
私が住んでいる場所と実家は離れているので空き家となった実家の管理に困っています。
所有者の母と話合った結果、もう実家に戻れる状況でもなく固定資産税の負担もあり、土地の値段も上がっていると聞いたので売却することにしました。
希望としては東京オリンピックまでに売却したいのですが、買い手がいつ見つかるか不明です。
そこで母の生前に売却した場合と相続後に売却した場合で税金的に何か違いがあれば教えて下さい。

生前に売却した場合

所得税関係

生前に譲渡した場合は所有者である母に所得税が課税されます。
実家は空き家となっているのですが、売却のタイミングによっては「居住用財産の特例」が使えます。
どのタイミングかというと、実家から老人ホームに生活の本拠が移った日から3年後の年末までです。
この期間に売却すると家屋と土地の売却益から合計3,000万円を特別控除できます。
今回の事例では平成29年に生活の本拠が老人ホームに移っているとすれば令和2年の年末が期限です。
そのため令和3年1月以降に売却した場合は、3,000万円の特別控除の適用はありません。

老人ホームの利用がショートステイなど一時的なもので実家に戻る前提であれば生活の本拠は実家のままです。住民票だけでなく生活用品がどこにあるか等本拠が移った日の判定は個別に判断する必要がありますのでご注意ください。

その他の特例と併用できないなど細かい要件については下記の国税庁のHPを参照して下さい。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

実家の所有期間が10年以上であれば所得税率も15%→10%と軽減される特例の適用もあります。

相続税関係

生前に実家が売れたことによる売却代金は、相続発生時に残っていれば相続財産となり相続税の課税対象になります。

相続後に売却した場合

相続税関係

実家は、母の相続財産のため相続税の課税対象となります。
建物は固定資産税評価額、敷地は路線価や固定資産税評価をもとに価額を算定します。
実際に売却する代金のおおむね80%~60%ほどの金額で評価されます。
そのため生前に売却した金額が現預金として丸ごと残っている状況で課税されるより通常は不動産として課税されるほうが相続税の負担は少なくなります。

また相続開始時点では老人ホーム等に居住していても一定の要件を満たせば空き家の実家敷地を居住用敷地とみなして小規模宅地の特例の適用を受けることもできます。

主な要件
①要介護認定等を受けていた被相続人が老人ホーム等に入居していたこと
②入居直前まで被相続人の居住の用に供していた家屋の敷地であること
③実家を相続した相続人がマイホームを所有していないこと
④マイホームを所有していない、いわゆる「家なき子」で一定要件を満たすものが取得したこと

詳しくは下記HPを参照して下さい。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

小規模宅地は、実家敷地を評価減する特例のため適用できれば相続額は少なくなります。

所得税関係

母の相続後に空き家となっている実家を売却した場合は、相続人の居住用財産ではありませんが、一定の要件を満たすと売却益から3,000万円を特別控除出来ます。

主な要件
①相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋
②昭和56年5月31日以前に建築された家屋(マンション等の区分所有は対象外)
③相続開始から売却まで空き家であったこと
④売却した相続人が家屋と敷地の両方を相続していること
⑤売却代金が1億円以下であること
⑥耐震改修を行ってから売却するか家屋を取壊してから敷地を売却していること
⑦確定申告書に「被相続人居住用家屋等証明書」など書類を添付

その他の要件は下記HPを参照し下さい。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

改正前は老人ホームに生活の本拠が移った場合は、上記要件①に該当しないため適用出来ませんでした。
しかし平成31年4月1日以降の売却から今回の事例のような場合でも適用出来るよう以下の要件が追加されました。

・被相続人が要介護認定を受けていて相続開始直前まで老人ホーム等に入居していたこと
・入居直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋であること
・入居後から相続開始まで、被相続人の家屋が被相続人の物品保管等に使用されていたこと

その他の注意点として、この特例も相続開始から3年経過した年の年末までに売却するという期限があります。
また相続空き家の売却では、所得税の軽減税率の特例は適用出来ません。

実家の売却と同時に相談者のマイホームも売却して買替える場合は、一定の要件を満たせば相談者のマイホーム売却益にも3,000万円の特別控除の適用があります。
ただし実家とマイホームの売却益から控除できる上限は6,000万円ではなく3,000万円ですのでご注意ください。

実家を売却する前に賃貸したり違う用途に使用していると取扱いが異なります。
不動産について考える場合は、税金も影響しますので一度専門家に相談したほうが得策かもしれませんね。