2019/05/29

仮想通貨の法人税の取扱い(平成31年度税制改正)

改正の概要

今回の改正により、仮想通貨の譲渡損益や時価評価等についての取扱いが整備されました。
改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用されますので、一般的には、申告作業真っ只中のH31.4月決算法人から適用ということになります。
ご参考になれば幸いです。

(1)譲渡損益の帰属時期の明確化

原則、譲渡契約日の属する事業年度に譲渡損益を計上することとなりました。
株式などの有価証券の取扱いと同じですね。

(2)時価評価の導入

法人が、期末に保有する市場仮想通貨(仮想通貨のうちビットコインなどのメジャーなものをイメージして頂ければOKです。)については、原則、期末時点の時価により評価することとなりました。
なお、その時価評価損益は翌期に洗替処理(評価益は翌期に損金算入といった具合です)します。

(3)信用取引に係るみなし決済損益

法人が、仮想通貨の信用取引を行った場合において、そのうち期末時点で決済されていないものがあるときは、期末時点で決済したものとみなして、みなし決済損益額を算出することとなりました。
処理としては(2)とほぼ一緒で、翌期の洗替処理についても(2)と同様です。

(4)その他所要の整備

棚卸資産や固定資産の範囲から仮想通貨が除外されるなどの整備がありました。
例えば、最終仕入原価法による期末評価はできないということですね。

経過措置

経過措置として次のような措置が講じられています。

(1)譲渡損益の帰属時期

① 原則
H31.4.1以後最初に終了する事業年度(「改正事業年度」)前に仮想通貨の譲渡契約をし、改正事業年度以後にその引渡しをした場合
… 引渡しの日の属する事業年度
② 経過措置
①に加え、改正事業年度において譲渡損益を計上した場合
… 譲渡契約日の属する事業年度

(2)時価評価

① 原則
H31.3.31以前に開始し、H31.4.1以後に終了する事業年度(「経過事業年度」)の期末時点で保有する市場仮想通貨
… 時価評価が適用されます。
② 経過措置
①の場合に、その保有する市場仮想通貨の全てについて時価評価損益を経理していない場合
… 時価評価を適用しなくてもOKです。

(3)信用取引に係るみなし決済損益

(2)と同様です。

ケーススタディ

経過措置を含めた、時価評価の導入による課税所得への影響を計算してみました。

【前提】

・1年決算法人

・保有通貨はビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)

・X1期末の評価損益はBTCが+100万円、ETHが△200万円

・X2期末の評価損益はBTCが△200万円、ETHが+300万円

【ケース1】3月末決算法人

(1)X1期(H30.4月~H31.3月) … 時価評価できないため、評価損益は生じません。

(2)X2期(H31.4月~R02.3月) … 時価評価しなければなりません。

① 戻入
前期に時価評価していないため、戻入なし。
② 繰入
BTC評価損△200万円+ETH評価益300万円=+100万円
③ 合計
①+②=+100万円

(3)2期通算

(1)+(2)=+100万円

【ケース2】3月決算法人以外の法人(例:4月末決算法人)でX1期に時価評価しない場合

※ 経過措置のケースです。

(1)X1期(H30.5月~H31.4月) … 時価評価しないため、評価損益は生じません。

(2)X2期(R01.5月~R02.4月) … 時価評価しなければなりません。

以下、【ケース1】と同じ計算になります。

【ケース3】3月決算法人以外の法人(例:4月末決算法人)でX1期に時価評価する場合

(1)X1期(H30.5月~H31.4月)

① 戻入
前期に時価評価していないため、戻入なし。
② 繰入
BTC評価益100万円+ETH評価損△200万円=△100万円
③ 合計
①+②=△100万円

(2)X2期(R01.5月~R02.4月) … 時価評価しなければなりません。

① 戻入
BTC評価益戻入△100万円+ETH評価損戻入200万円=+100万円
② 繰入
BTC評価損△200万円+ETH評価益300万円=+100万円
③ 合計
①+②=+200万円

(3)2期通算

(1)+(2)=+100万円

上記から、【ケース1】~【ケース3】のいずれも評価損益は2期通算で見ると+100万円になりますが、【ケース3】のように、3月末決算法人以外の法人はX1期の所得を抑えて課税を繰り延べることができる場合があります。

なお、繰り延べた分は翌期の所得に加算されます。法人住民税を含めた法人税の実効税率は、課税所得によって変わりますので、時価評価の適用にあたっては、当期と翌期の経営状況を十分に検討したうえで判断して下さい。