2018/12/05

損益通算

所得の種類に注意しましょう!

所得税では、所得がどのようにして発生したかで所得の種類を分けています。
赤字が出た所得と黒字の所得を、差し引きして税金を計算することによって、税額を少なくすることを損益通算といいます。

ただし、所得の種類によって損益通算できるものと、できないものがあります!

『赤字を他の所得と損益通算できる所得』
不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得(総合)

損益通算の注意点

(1)不動産所得の赤字のうち、土地等の取得のための借入金利子部分(ローン利子)については他の所得と損益通算できません。
(2)競走馬(事業用除く)、貴金属や書画、骨董など生活に通常必要でない資産や特定居住用財産以外の土地建物の譲渡による損失は損益通算できません。
(3)申告分離課税を採用した場合の株式の譲渡による黒字と赤字は、株式に係る譲渡所得内部では相互に差引計算できますが、他の所得とは損益通算できません。

ただし、平成 21 年分以降については、その控除しきれない損失の金額のうち、上場株式等に係る譲渡損失の金額は、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得(大口株主等が受けるものを除く)の金額から控除することができます。(確定申告書への記載が必要で
す。)

例えば…
サラリーマンの人で分譲マンションの一室を購入して貸し付けていて「ローン金利や固定資産税、減価償却費などの経費を入れると赤字になってしまう」といった人は、確定申告をすれば、毎月給料から引かれていた所得税が還付されます。「毎年、赤字だから申告していない」という方は一度、見直してみてください。

マイホームを売却して損が出た場合の損益通算の特例

平成16 年の税制改正によって、原則、不動産を売却したことによる損失は、他の所得と損益通算することができなくなりました。

しかし、特例として、マイホームの売却損は、一定の要件を満たせば、他の給与所得や事業所得などと損益通算することができる租税特別措置法上の2 つの特例制度があります。

そして、損益通算をしても通算しきれない損失の金額は、翌年以降3 年間にわたり繰り越して所得金額から控除することができます。
※この期間内に通算しきれない損失の金額が残ってしまった場合には、切捨てられてしまいます。

(1)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の特例(措置法 41 条の 5)
売却した年の1 月1 日において、土地家屋ともに所有期間が5 年を超えるマイホームを売却して損失が生じた場合で、次の要件に全て該当する買い換えをした場合。

① 居住用部分の床面積が 50 ㎡以上の家屋またはその敷地で、売却した年か、その前年または翌年中に取得したものであること。
② 取得した年の 12 月 31 日までに入居(見込み含む)すること。
③ 買換えたマイホームの取得に係る住宅ローンがあること(償還期間が 10 年以上のもの)。

※損失の全額が通算の対象となります(ただし、譲渡土地のうち 500 ㎡を超える部分の損失金額は控除の対象になりません)。
※住宅ローン控除との併用が可能です。

④ 特定居住用財産の譲渡損失の特例(措置法 41 条の 5 の 2)
売却した年の 1 月 1 日において、土地家屋ともに所有期間が 5 年を超えるマイホームを売却して損失が生じた場合で、買換をしなくても、譲渡資産が次の要件に該当するときは、その損失について損益通算及び翌年以後3 年間繰越して所得金額から控除することができます。

1.譲渡契約日の前日において、その譲渡資産の取得に係る住宅ローン(償還期間10 年以上のもの)の残高があること。
※買換等の場合の譲渡損失の特例(措置法 41-5)と違い、借入金残高から譲渡対価を控除した差額が損益通算の限度額になります。 買換等の特例適用が可能なら、そちらの方が有利ですね。
※買換をしたが、要件に当てはまらずこの制度を利用した場合も、住宅ローン控除との併用が可能です。

ここでは、譲渡した年の1 月1 日時点で所有期間5 年以上ということが重要なポイントです。
所有期間を判定するにあたって、取得、譲渡の日とは原則、「引渡日」なのですが、「契約の効力が発生する日」とすることもできます。有利になるように考えましょう。

(2)その他 特例適用にあたっての注意点

(3)譲渡した年の前年以前の一定期間内に、他の資産譲渡に関して、他の一定の課税特例などの適用を受けていないこと。

(4)制度が適用されるのは合計所得金額が 3,000 万円以下である年に限ります。

(5)特別の関係のある者(配偶者や親族など)に売却したものでないこと。

(6)売却した居住用家屋・敷地の登記事項証明書などや、居住用財産を譲渡した日から 2 ヶ月経過後に交付を受けた除票住民票の写しなど一定の書類が必要です。

(7)今のところ平成 23 年 12 月 31 日までに売却したものとされています。

この損失で合計所得金額が 1,000 万円以下になった場合は、配偶者特別控除の適用が受けられる場合があるでしょう。また、損失となった場合は、逆に奥さんの確定申告で配偶者控除をとるという節税も考えられます。

ゴルフ会員権の譲渡で損益通算!値下がり会員権ありませんか?

「バブル時代に数百万円で買った会員権が今は数万円の価値しかない…。」こういった値下がりした会員権を売却してでた譲渡損は他の所得と損益通算できます。

ただ、ここで注意しなければならないのは、ゴルフ場が破綻してしまったらその会員権を売却したことによる譲渡損を、損益通算できない場合があることです。

(1)ゴルフ会員権とは
現在主流となっている 「 預託金方式 」 のゴルフ会員権は、ゴルフ場を一般の利用者に⽐して有利な条件で継続的に利用できる権利「プレー権」 と、「預託金返還請求権」からなっています。

(2)ゴルフ場経営会社が破綻した場合等の譲渡損の損益通算
① 清算型処理が行われた場合
ⅰ . ゴルフ場経営会社が破産宣告を受けた場合
会社が消滅した場合、「プレー権」も通常は消滅し「預託金返還請求権(金銭債権)」のみが残ります。よって、破産宣告を受けた後のゴルフ会員権の譲渡は、単なる金銭債権の譲渡となり、譲渡損がでても損益通算できません

ⅱ . ゴルフ場経営会社が特別清算開始決定を受けた場合
協定案が可決され、ゴルフ場が第3 者へ事業譲渡されれば営業は継続することができるため、ゴルフ会員権は本来の「プレー権」と「預託金返還請求権」を維持していることになります。
よって、ゴルフ会員権の譲渡によってでた譲渡損は、損益通算できます

ⅲ . ゴルフ場が競売にかけられて、ゴルフ場が差し押さえられた場合
担保となっていたゴルフ場が担保権の実行により競売にかけられた場合には、競売が行われたことによってプレー不可能となり、そのゴルフ会員権の譲渡は①ⅰの場合と同様に金銭債権の譲渡となり、譲渡損がでても損益通算できません

② 再建型処理が行われた場合
ⅰ . ゴルフ場経営会社が他の経営会社に営業権を譲渡した場合
旧ゴルフ場経営会社が、営業権(ゴルフ場施設と預託金)を新経営会社に譲渡するものは、契約先が変わっただけで、ゴルフ会員権としての性質は維持していると考えられるため、営業権が譲渡された後のゴルフ会員権の譲渡によってでた譲渡損は、損益通算できます

ⅱ . ゴルフ場経営会社が民事再生法等の適用を受けた場合
民事再生法等の再生計画により、預託金の一部をカットして、ゴルフ場経営会社は営業を存続する場合は、ゴルフ会員権としての性質は維持しているため、会員権の譲渡によってでた譲渡損は、損益通算できます

預託金の一部あるいは全額カットの場合の取扱い(国税庁見解)

民事再生法等による再生計画等により、預託金債権を一部切り捨てた上、ゴルフ場経営会社は営業を存続するという場合、単に契約内容の変更があったにすぎず、ゴルフ会員権としての性質は維持するというものであり、切り捨てられた損失の金額は認識せず、取得価額も減額(付け替え)しない。
ところで、再生計画等の中で預託金債権を 100% 切り捨てた上、優先的施設利用権だけが継続するケースをどう考えればいいかという問題がある。

これについては、預託金債権を 100% 切り捨てることによって、その後そのゴルフクラブを退会した場合でも、もはや預託金返還請求権を行使することができないことから、切捨て後のゴルフ会員権は、優先的施設利用権と預託金返還請求権を内容とする本来の性質を
維持しているとはいえない。
このため、そのゴルフ会員権の取得価額と優先的施設利用権だけのゴルフ会員権の時価相当額との差額は、家事上の損失として切り捨てられ、その損失は各種所得の金額の計算上考慮されないことになる。

<ポイント!>
損益通算の可否は、ゴルフ会員権としての性質(プレー権と預託金返還請求権)を維持しているかどうかで判断します。維持している場合は譲渡損の損益通算が可能で、維持していなければ 損益通算できません。
もし会員権を持っているゴルフ場が倒産しそうだと思ったら、倒産して損益通算できなくなる前に売ってしまって損益通算した方が得策ですね。