2018/09/15

帳簿等の記載・保存義務

帳簿等の記載・保存義務

原則的な計算方法は預かった消費税から支払った消費税の差額というのはおわかりいただけたと思います。

少し細かい話なのですが、この預かった消費税から支払った消費税を控除する時に条件があります。それは「帳簿や請求書の記載・保存義務」というものです。帳簿の記載とは、その取引の詳細の記載、保存とはその取引の事実を証する請求書・領収書等の保存のことです。

この義務を守らないと、支払った消費税として控除していたものを否認されたり、簡易課税制度の場合、不利な事業区分を適用されたりといった不利益を被る可能性があります。

交通費など一部を除き、請求書・領収書等がもらえない場合、正当な理由がなければ税務調査で否認されます。

「領収書を無くしたのは悪いけど、支払っているのは事実なんだし。何だったら先方に問い合わせてよ!」といわれる方もいると思います。2 ~ 3 件であればまだ言い訳の余地もありますが…。

余りにも度が過ぎてしまうと、本当に否認されてしまいます。高額な追徴を課された事例もあるのです。その場合、法律ですのでどうしようもありません。また、消費税の問題だけでなく経費としても認められないことになりかねません。

安易に考えないで「帳簿や請求書の記載・保存義務」の重要性を⼗分ご認識ください。

(1)帳簿への記載事項

①課税仕入の場合
ⅰ 相手の氏名または名称
ⅱ 取引(支払)年月日
ⅲ その取引の内容
ⅳ その取引の金額

② 課税貨物引取の場合
ⅰ 保税地域から引き取った年月日
ⅱ その貨物の内容
ⅲ その貨物の消費税

(2)保存される請求書等への必要記載事項

まず、控除を受けるために保存が必要となる請求書等とは下記の書類です。
① 相手方が作成した請求書、納品書、領収書など
② 自⼰が作成した請求書、納品書、領収書など(相手の承認のあるもの)
③ 税関が交付する輸入許可証

① 相手方作成書類、および ②自⼰作成書類への必要記載事項
ⅰ その書類の作成者の氏名または名称
ⅱ 取引(支払)年月日
ⅲ その取引の内容
ⅳ その取引の金額
ⅴ その書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
※ただし、飲食業や⼩売業など不特定多数を相手としている事業ではレシートなどに相手名・名称を記載しないのが商慣習となっている場合は除かれます。

③ 輸入許可証への必要記載事項
ⅰ 保税地域を所轄する税関長
ⅱ 保税地域から課税貨物を引き取ることが可能となった年月日
ⅲ 課税貨物の内容
ⅳ 課税貨物にかかる消費税の課税標準および引き取りにかかる消費税・地方消費税
ⅴ 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 (消法30- 7.8 質疑応答事例)

(3) 請求書等の保存期間

消費税の申告期限(期末の2 ヵ月後)の翌日から7 年間。
但し、6・7 年目は帳簿又は請求書のどちらかを保存すればよいこととされています。

(4)特例措置

原則は、上記の通りなのですが、事業者間の手間や取引実態を踏まえて特例措置があります。

① 特例1
請求書等の交付を受けなかった事につきやむを得ない理由がある場合、帳簿に上記記載事項の記入に加え、次のようなやむを得ない理由および相手方の住所、所在地を記載すれば要件を満たしているものとみなされます。(消法30-7、質疑応答事例)
ⅰ 自販機による購入 例えば乗車券など相手方に回収されるもの
ⅱ 相手方に請求したが交付を受けられなかった場合
ⅲ その事業年度中に金額が確定しない場合

また、下記の国税庁長官が指定する者については、その相手方の住所または所在地の記載を省略できます。
ⅰ 電車、タクシーなどの事業者
ⅱ 郵便局
ⅲ 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当を支払った従業員

② 特例2
支払った金額が3 万円未満の場合は、帳簿に記載すれば、請求書などの保存は要しません。
※ 3 万円未満とは1 回の税込み取引で判断します。これは消費税法上の特例で、法人税法上は3 万円未満でも必要です。破棄していいということではないので、誤解がありませんように…。

(5)クレジットカード

よくクレジット会社が発行する「請求明細書」があれば領収書などは保存しなくて良いと思われている方が多いですが、これはその取引した相手方が発行した請求書ではなく、クレジット会社を介しているだけであり、原則、要件を満たしていないため、請求書等に該当しません。

ただし、利用時にもらう利用明細書には下記の情報が記載されていることが一般的なため、実務上は請求明細書と一緒に保存すれば認められます。(消法 30-7.9、質疑応答事例)

① その書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
※もし記載がなければ手書きでよいので書いておきましょう。飲食の場合は同席した人の名前もあわせて。
④ 課税資産の譲渡等の対価の額
⑤ その書類の交付を受ける者の氏名又は名称

クレジットカード払いの利用明細書は、「後日、カード会社から請求明細書が届くからいらない」という気持ちはわかりますが、利用明細書は請求明細書と一緒に必ず保存しましょう。
また、領収書(レシート)ももらっておくべきでしょう。
※インターネット代など契約に基づいて支払うものは、その契約書の保存があれば大丈夫です。

(6)口座振込、口座振替

振込んだ場合、領収書がもらえないのが商慣習だと思いますが、これは銀行発行の振込金受取書(ATM から出る利用明細のこと)には、こちらの名前、年月日、相手先名、金額が記載されており、その取引内容については契約書または相手が発行している請求書などとともに保存すれば要件を満たしているためです。

また、家賃やリースなど約定で決められた日に振替しているものも通帳に記載されるだけで、請求書・領収書がないと思います。

この場合は、賃貸借契約書を交わしていたりリース料金支払予定表をもらっていたりしているはずなので、それら書類と共に保存することで「やむを得ない理由にあたる」と考えられ、帳簿記載および契約書の保存のみで問題はありません。
(消法30-7.9-2、消令49- 1- 2、消基通11-6-3、質疑応答事例)
※帳簿には「⼝座振替のため」等の記載で大丈夫です。