2022/09/21

財産債務調書の改正

財産債務調書制度とは?

財産債務調書制度とは、所得税の確定申告をする必要がある方、または一定要件に該当する還付申告を行う方を対象として、確定申告書とは別に財産債務に関する調書の提出を求める制度のことです。
この財産債務調書制度が導入されたのは平成27年度税制改正でした。
それ以前は、退職所得以外の所得金額が2,000万円を超える場合に「財産及び債務の明細書」を確定申告書に添付する必要がありました。
しかし実務上、財産及び債務の明細書の提出を怠ったとしても税務当局に指摘される可能性は低く、罰則規定がなかったことから提出状況が低かったようです。

このような経緯から、平成27年の税制改正で財産及び債務の明細書が抱える問題点と申告の適正性を確保することを目的に、記載内容等が整備され財産債務調書へとなりました。

財産債務調書の提出が必要な人は?

財産債務調書の提出を求められるのは以下の要件に該当する方です。
所得税の確定申告をしなければならない方または所得税の還付申告書を提出する方で、

①退職所得を除いたその年分の総所得金額が2,000万円を超え
かつ
②その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産を有する場合
または
③その価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合
です。

※国外転出特例対象財産とは所得税法第60条の2に規定する以下のようなものを指します。
・有価証券等
・未決済信用取引等
・未決済デリバティブ取引に係る権利

上記に該当する場合には、財産の種類、数量および価額ならびに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書を、その年の翌年の3月15日までに、所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
なお、財産債務調書のほか、居住者(「非永住者」の方を除きます。)の方で、その年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する方は、その国外財産の種類、数量および価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、その年の翌年の3月15日までに、住所地等の所轄税務署長に提出しなければなりません。

財産債務調書に記載する財産の価格は?

財産債務調書に記載する財産の価額は、その年の 12 月 31 日における「時価」又は時価に準 ずるものとして「見積価額」によることとされています。また、財産評価基本通達で定める方法により評価 した価額とすることも可能です。

財産債務調書を提出する?しない?

財産債務調書制度においては、適正な提出を確保するために特例措置があります。

■財産債務調書の提出がある場合の過少申告加算税等の軽減措置
財産債務調書を提出期限内に提出した場合には、財産債務調書に記載がある財産または債務に関して所得税等・相続税の申告漏れが生じたときであっても、その財産または債務に係る過少申告加算税または無申告加算税が、5パーセント軽減されます。

■財産債務調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置
逆に財産債務調書を期限内に提出していなかった場合や記載内容に漏れがある場合、あるいは記載内容に仮装隠蔽等の不備がある場合には下記のペナルティがあります。

財産債務調書の提出が提出期限内にない場合または提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産または債務の記載がない場合(重要なものの記載が不十分であると認められる場合を含みます。)に、その財産または債務に関して所得税等の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、その財産または債務に係る過少申告加算税等が、5パーセント加重されます。
(注)相続財産債務については、相続財産債務を有する方の責めに帰すべき事由がなく提出等がない場合は、加重措置の対象となりません。この取扱いは、令和2年分以後の所得税について適用されます。

財産債務調書は該当する方は提出しなければなりません。提出すると恩恵があり、提出しないとペナルティがあるという事ですね。

財産債務調書制度の見直しについて

令和4年度税制改正において、令和5年分以後の財産債務調書の提出義務者、提出期限等について見直しが行われました。

■令和4年度税制改正内容
①提出義務者の拡充(令和5年分以後)
・従来の退職所得を除いたその年分の総所得金額が2,000万円を超え
かつ
・その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産を有する場合
または
・その価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合

上記に加えて、その年の12月31日において、
・その合計額が10億円以上の財産を有する者も提出が義務付けられました。

②提出期限の後倒し(令和5年分以後)※国外財産調書も同様
令和4年分までの提出期限は3月15日ですが、令和5年分以降は6月30日までとなりました。

③過少加算税等の特例措置
提出期限後の提出が、調査通知前にされたものである場合に限り、過少申告加算税等の特例措置が適用されます。(令和6年1月1日以後に提出される財産債務調書・国外財産調書に適用)

④記載事項の簡略化(令和5年分以後)
・事業用の未収入金、事業用の未払金・その他の債務、家庭用動産(現金、書画骨董、美術工芸品、貴金属類を除く)の取得価額100万円未満から300万円未満に引き上げられました。
  
・預入高50万円未満の預貯金その預入高の記載を省略できます。

・青色申告決算書又は収支内訳書に記載された減価償却資産については、資産毎に区分して記載する事が省略できます。

今回の改正は提出義務者の範囲を広げましたが、期限の後倒し、記載方法の簡略化がメインとなります。
財産債務調書の作成は一般の方にはあまり馴染みのない作業ですから、なかなか難しい部分ではあります。
そして、一度提出すると多くの方は、ほぼ毎年提出することになると思います。将来の相続やご自分の財産を管理するためだと、前向きにとらえたいところです。

記.大阪業務3課