2021/07/21

条文の読み方について

犯罪で得た収入に税金!?

犯罪によって得た収入にも税金はかかります。

所得税基本通達36-1では次のように記されています。
法36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。

所得税の収入の基礎となる金額は、その行為が違法でも課税されることになります。つまり、犯罪により得た収入にも税金がかかるということですね。内容により事業所得、雑所得、一時所得に分かれるといったところでしょうか。
以前の所得税基本通達148では、窃盗、強盗又は横領により取得した財物については所得税を課さない、とされていました。しかし、これはすでに廃止されています。
実際のところ、犯罪を犯す人がそれによる税金のことまで考える事はないでしょうが、上記の通り、このように犯罪により取得した収入には税金がかかるということが読み取れます。
刑務所にまで税務署員が追いかけてくるということになりますね。後に裁判等でその金品等が被害者に戻った場合には、一度納めた税金を更正の請求により取り戻すことは可能であると考えられます。

所得税では非課税とされているものが限定列挙されているため、それ以外のものは課税されることとなります。
参考までにオリンピックに関する規定はこのようなものもあります。
・オリンピック、パラリンピックにおいて優秀な成績を収めた者に財団法人日本オリンピック委員会等から交付される金品(所法91十四)
「等」が気にはなりますが明記されていないのでその範囲は不明瞭です。

法令用語

税法を読んでいるとその独特な表現について理解に苦しむケースが多々あります。大差ないようにも感じられますが、厳密に使い分けがされているので簡単に紹介していきます。

・「及び」「並びに」
その前と後での関連性の違いにより使い分けがされています。
例 A、B及びC
ABCが同じ種類(代表取締役、取締役及び監査役など)
例 A、B並びにC
ABが同じ種類でCは別の種類(代表取締役、取締役並びに従業員など)

・「者」「物」「もの」
「者」は自然人や法人、「物」は物件などの有体物、「もの」は「者」と「物」に属さない広義なものを示すときに使われます。
例 法人税法施行令7-1(役員の範囲)
法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事しているもの

・「経過する日」「経過した日」
消費税法でよく出てきます。「経過する日」は期間が満了する日、「経過した日」は経過する日の翌日を指します。
例 事業年度が4月1日から3月31日の場合、事業年度末日から2月を
①経過する日は 5月31日
②経過した日は 6月1日
 
・「場合」「とき」「時」
両者とも仮定的な条件を表したいときに使われ、条件が一つの時は大きな違いはありませんが、「…した場合に…したときは」と条件が二つある時は「場合」は条件が大きく「とき」は条件が一段階絞られ、より狭くなります。 また、「とき」と「時」は区分して使われており、より具体的な時点や瞬間を表す際に「時」が用いられます。

・「その他」「その他の」
一見、見落としそうになりますが、きちんと違いがあります。
「Aその他のB」の場合、AはBの例示を表します。
「Aその他B」の場合、AとBは並列的な意味合いで使われます。
例 事業所得(所法27)
「事業所得とは、農業、漁業、…その他の事業で…」
その他の事業の例として農業、漁業が挙げられている、ということです。
 
例 青色申告の取消し(所法150)
「…税務署長の指示に従わなかったことその他一定の事実がある場合には…」
 従わなかったことの他、その他一定の事実がある場合なので並列しただけで前後に関連性はありません。
 
・「係る」「関する」
両方とも前後が関連することを示しますが、「係る」は「関する」よりも直接的な関連性を示しています。

・「みなす」「推定する」
「みなす」はそうでないものをそうと決めつけるときに使われます。相続税法でいう「みなし財産」がこれです。死亡保険金は本来財産ではありませんが、税法上は相続財産とみなして一定の金額に相続税が課される、というものです。
「推定する」は不確定事実である事象に対し、規定が適用される状態にあると認定して法の効力を生じさせようとするものです。のちに事実が異なることが証明されればその推定は覆ります。

・「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」
届出書関係によく出てくる文言です。
「直ちに」はこの3つの中で最も強制力が強い表現です。すぐに行わないと罰則があるケースもあります。
「すみやかに」は「直ちに」よりは強制力は弱く通常の事務処理に従ってできるだけすみやかに行えば良いという訓示的な意味合いがあります。
「遅滞なく」はこの中で最も緩やかな表現です。合理的な理由があれば遅れることも許されており、時間的な余裕を与える意味も持っています。

・「価格」「価額」
「価格」は物の価値などの金額でないものを金銭で表したもので、一般的または抽象的な金銭価値のときに用いられます。
「価額」は具体的なものの時に用いられ、相続税法では下記のように両方使われている条文があります。
例 課税価格(相法11-2)
「当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする。」
実は読み方も「かかく」と「かがく」で異なります。

・「取消し」「撤回」「無効」
「取消し」は既に生じている法的な効力を一方的に取り消してしまうことで、出したという事実と取消すという事実が明らかとなります。
「撤回」は既に出してしまったものを無かったことにすることで、実質的には取り戻したことと同様の意味合いです。
「無効」は出してはいるが効力は生じないことを意味しています。

今回は簡単に羅列させていただきましたが、その他にも税法には特有の言い回しがあり使い分けがされている表現がたくさんあります。
間違った意味で解釈しているとリスクもあるので注意が必要ですね。

記.名古屋事務所1課