2018/01/09

個人所得課税-平成30年度税制改正大綱

サラリーマンの必要経費がカットされる?

サラリーマンの必要経費?っと言ってもピンと来ない人もいると思いますが、ちゃんと認められています。サラリーマンの人も給与収入にいきなり税金がかかるわけではありません。給与所得控除といって、給与収入に応じて一定の金額が経費として引かれてから税金の計算をします。

今回の税制改正では、このサラリーマンの必要経費が縮小されるようです。
特に高収入のサラリーマンには痛い改正になっています。

給与所得控除額とは?

現行の給与所得控除額は以下の表のとおりです。

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%(最低65万円)
1,800,000超 3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000超 6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000超 10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)

給与年収が600万円の必要経費は174万円になります。

今回の改正後

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円以下 55万円
1,625,000超 1,800,000円以下 収入金額×40%-100,000円
1,800,000超 3,600,000円以下 収入金額×30%+ 80,000円
3,600,000超 6,600,000円以下 収入金額×20%+440,000円
6,600,000超 8,500,000円以下 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,000円超 1,950,000円(上限)

1)控除額が一律10万円引き下げられます。

2)上限が850万円になり、その控除額が195万に引き下げられます。

例えば!
年収1千万円の方の差額
(※計算を簡単にするために各所得控除は考慮しません。)

現行
 10,000,000円-2,200,000円(給与所得控除額)=7,800,000円×税率=1,158,000円(所得税)

改正後
 10,000,000円ー1,950,000円(給与所得控除額)=8,050,000円×税率=1,215,500円(所得税)

所得税だけで、57,500円の差額です。結構大きな金額ですよね。

あとで述べますが、基礎控除が10万円増加しますので、結果として850万円以下のサラリーマンは、現行とあまり変わりありません。

また、850万円を超える方でも、23歳未満の扶養親族や要介護の家族(特別障害者)がいる方は、現行と変わらないように措置がとられています。

上記の改正は平成32年分以降の所得税から適用されます。

私はもっと必要経費がかかっているよ!!

サラリーマンの中には、法律で定められた給与所得控除額より、もっと必要経費を使っているという方もいらっしゃるかも知れません。

そんな方のために特定支出控除という制度があります。
今回の改正で少しだけ見直しされています。

特定支出控除とは

特定支出控除とは、給与所得控除額の半分以上を経費として使った時に使える制度です。

現行の制度なら年収600万円の人の給与所得控除額は174万円ですので

1,740,000円×1/2=87万円

87万円以上の領収書が必要になります。もし100万円の必要経費があれば、

給与所得控除は187万円=174万円+(100万円-87万円)になります。

でも、実際にこの特定支出控除を適用している人はほとんどいません。というのも、以下の説明を読んでいただければわかると思います。

認められる領収書(必要経費)

 1.通勤費 会社から支給される通勤費を超えての自己負担の交通費

 2.転居費 転勤の際の引越し費用で、会社支給以外の自己負担額

 3.研修費 仕事で使う技術等を習得する際の研修費用の自己負担額

 4.資格取得費 仕事に必要な資格を取るための費用

 5.帰宅旅費 単身赴任者の帰宅費用の自己負担額

 6.勤務必要経費 図書購入費・衣服費・交際費等

今回の改正での追加分
 
・ 仕事で通常使う交通費

・ 帰宅旅費に関する利用制限が緩和
  

以上ですが、通常は会社が負担するような経費ばかりですね。3と4は自己負担するケースもあるでしょうが、特定支出控除を使うにはハードルが高いようです。
しかも、ただ領収書等があればいいだけではなく、領収書等を会社に提出して会社の証明を受ける必要があります。

どうでしょう?上記のとおりなので、ちょっと現実的ではありませんでした。
でも、今回の改正で、年収850万円超の方は、検討される方が増えるかも知れませんね。

個人事業主の税金はどうなる?

今回の改正案では個人事業主にも影響するものがあります。
基礎控除額や青色申告特別控除も見直しされることになりそうです。

基礎なのに国民一律では無くなる!!

所得税の基礎控除額は、これまで何度か金額の増加の改正がありました。

金額は国民一人あたり同額で、平成7年からは38万円です。
そもそも、基礎控除額は、憲法の保障する生存権と関係していたようです。異論はあるでしょうが、年間38万円あれば成人一人の食費は賄えるという事らしいです。今回の改正で、この一律38万円が撤廃されます。

高額所得者には大増税か?

基礎控除額は、2,400万円以下は48万円。それ以上の所得の方は段階的に減額されて2,500万円を超える方は基礎控除は無しになります。

改正後の所得税の基礎控除額

1 合計所得金額が2,400万円以下である個人 48万円

2 合計所得金額が2,400万円を超え2,450万円以下である個人 32万円

3 合計所得金額が2,450万円を超え2,500万円以下である個人 16万円

4 合計所得金額が2,500万円を超える個人           0円

合計所得金額とは、個人事業主は収入から必要経費を引いた所得金額、サラリーマンは給与収入から給与所得控除額を引いた金額です。いずれも、扶養控除や社会保険料控除などの各所得控除を差し引く前の金額です。

個人事業主も高額所得の方には増税になります。

青色申告特別控除額も減額される!!

個人事業主の青色申告控除額は、現行は65万円です。

今回の改正で55万円に引き下げられます。

でも下記のいずれかの要件を満たせば、引続き65万円の控除を適用できます。

 1 会計ソフト等を使用して、そのデータを電子保存する

 2 e-TAX(電子申告)によって申告する。

2の電子申告は、かなり普及していますので問題ないようですが、1についての電子保存は、まだ一部の普及にとどまっていますので、平成32年までに検討、整備していく必要がありそうです。

その他では、公的年金の控除額も見直されていますが、基本的な考え方は、上記の改正と同じで、高額所得の方には厳しい改正になっています。

上記の改正は平成32年分以降の所得税から適用されます。