2017/09/19

事業承継で株式の取扱のポイント

今回のテーマは、中小企業の世代交代、つまり「事業承継」です。
特に事業承継で重要な株式について相談事例を用いて整理してみたいと思います。

前提条件

1、株主構成      2、株価

社長   100株    出資額    @  5万円
奥様    15株    相続税評価  @ 80万円
息子    50株    時価     @ 100万円
娘     15株
娘婿    15株
社長の弟  30株
甥     15株
叔父    30株
友人    30株
合計   300株

Q.
上記のような状況の社長から事業承継について相談があり、何から手を付ければ良いかわからないから問題点などがあれば教えて欲しい。

A.
ポイント1 事業を承継する後継者を決める。
ポイント2 分散している株式を集める。
ポイント3 株式を集めるときの金額に注意する。

それぞれについて具体的にみていきましょう。

ポイント1  後継者を決める

まずは誰を会社の後継者と定めるかという1番重要なポイントです。
今回の事例では、株主の中にも息子、娘、娘婿、社長の弟など複数の候補者が存在します。

当初候補者であった方が社長に就任してみたものの社長業の適性がない場合や、本人の事情により別の方に交代する事もあります。
そのため後継者は、ある程度時間に余裕をもって決定しておく必要があります。
また基本的には親族の中から後継者を選ぶことが多いですが、親族に適任者がいない場合は従業員の中から選ぶ若しくはM&Aの検討も必要かもしれません。

ポイント2  分散している株式を集約する

後継者が決まったら、出来るだけ自社株を後継者に集めます。
理由は、株式の保有割合によって以下のような権利が与えられるからです。

「保有比率」      「株主の権利」

1株以上   議決権 利益配当請求権 残余財産請求権 株主代表訴訟提起権
1%以上   株主総会提案権
3%以上   株主総会招集権 帳簿謄写閲覧権
10%以上   解散請求権
1/3超   株主総会特別決議の否決(拒否権)
1/2超   株主総会普通決議の可決 取締役・監査役の選任等
2/3以上  株主総会特別決議の可決 取締役・監査役の即時解任 定款変更
合併、株式交換、株式移転、金庫株、会社分割、第三者割当増資等

そのため中小企業の長所であるトップダウンでスピーディーに事業展開できるようにするためには、最低でも普通決議が可決できる1/2超、できれば2/3以上を後継者に集約したいところです。
また会社に直接関係のない社外の方に1/3超保有させないことも重要です。
理由は、合併等の特別決議を否決される可能性があるためです。

相談事例では、複数の株主が存在しています。
歴史のある会社であれば設立時に株主が7名以上必要だったので親族以外の友人等が株主であることもめずらしくありません。
ただ代表者の友人は、あくまでも代表者の友人であり後継者の友人とは限りません。
また友人が亡くなり、株式を取得した友人の相続人は代表者とも縁の無い方がほとんどです。
急に株式の買取り請求等があるかもしれないので、相続で更に分散する前に回収しておくほうが賢明です。
最悪の場合は、悪意のある第三者に売却されてしまう可能性もあります。

回収の方法は、

「個人株主間で売買する」「個人株主間で贈与する」「会社が自己株式として買取る」

上記の3パターンが一般的です。

ポイント3  株式を集めるときの金額に注意する

個人株主間の売買

後継者や代表者が友人等から株式を買い取ることです。
この場合は、売却代金から当初の出資額を引いた金額に15%の所得税が売主である友人等に課税されます。

友人が所有する30株を後継者が買取る場合の買取金額は、時価となります。

株価= @100万円 × 30株 = 3,000万円

所得税=( 3,000万円 - @5万円 × 30株 )×15% =427万5千円

上記の所得税が友人に課税されます。

※ 計算を簡略化するため譲渡費用、復興税、住民税などは考慮していません。

買主である後継者等には課税されませんが、買取るための資金3,000万円が必要になります。
後継者の自己資金で足りれば問題ないのですが、高額な買取資金となると会社から借りたり、金融機関から借入を検討する必要があります。

個人株主間贈与

株主から株主へ無償で株式を贈与します。
代表者から後継者へ贈与した場合、株式を受け取った後継者に贈与税が課税されます。

代表者の株式30株を後継者に贈与した場合

贈与の場合は、相続税評価で計算するため

株価 = @80万円 × 30株 = 2,400万円

贈与税 =( 2,400万円 - 110万円 )× 45% - 265万円 = 765万5千円

贈与の場合は、買取資金ではなく贈与税の納税資金が問題となります。
贈与税率は最高55%と高税率のため納税額が大きくなります。
さらに株式を貰っただけの贈与は、実際に現金が入ってこないので納税資金不足になります。
やはり会社から借入を検討する必要があります。

また詳細は割愛しますが税制改正により相続時精算課税制度と併用出来るようになった「贈与税の納税猶予」を検討してもよいかもしれません。
精算課税により税率が20%に固定されるため贈与時の納税額が低く抑えられ、さらに要件を満たせば贈与税が猶予されます。

※精算課税や納税猶予はメリットもありますが、細かい要件があったり将来的な株価も検討する必要があるため必ず専門家に相談してから実行して下さい。

自己株式の取得

会社が株主から株式を買取ります。
株主には、売却金額のうち剰余金部分については配当所得として課税されます。
配当所得は、給与所得等と合算され5%~45%の税率で課税されます。

また剰余金部分以外の売却金額については、譲渡所得として課税されます。
非上場株式の譲渡所得は15%の所得税が課税されます。

法人が社長の弟の株式を買取った場合は、時価により計算します。

株価 = @100万円 × 30株 =3,000万円

配当所得 = 3,000万円 - @5万円×30株 = 2,750万円

譲渡所得 = @5万×30株 - @5万円×30株 = 0円

配当所得のみ課税された場合の所得税は約668万円となります。

売主の株主については、配当所得は40%の税率で課税され約668万円の納税です。
個人間売買の15%の税率の427万円と比べて不利となります。

買取った法人側では、配当部分について20%の源泉徴収が必要です。

2750万円 × 20% = 550万円

法人が買取るため法人の資金繰りに余裕があれば買取資金は問題ないかと思います。
ただ自社株式を買取る場合は、株主総会を開催し買取金額を公表する必要があります。
そのため他の株主から一斉に買取請求されることもありますので慎重な検討が必要です。

毎年利益を計上してきた会社の株式は高額になり、高額な税金の支払が必要になる場合が多いです。
また今回は、簡便的に時価と記載しましたが、売り手と買い手の株保有割合により計算方法が異なり時価評価は複雑になります。
適性な時価よりも低い価格で売買を行うとおもわぬ贈与税が課税されることもあります。
そのためオーナー企業の株式を異動させる際は当事者間の合意金額だけでなく専門家の意見を交えて金額を決定したほうが課税リスクを回避できるかと思います。

今回のまとめ

○後継者を早目に決定する。
○株主一覧表を作成し問題がないか確認する。
○適性価格で後継者に株式を集め経営権を与える。