税務調査にAI
税務調査にAIが導入で所得税の追徴税額が過去最高に
国税庁は令和5事務年度(令和5年7月~令和6年6月)における所得税の調査結果を公表しました。この年度における所得税の実地調査と簡易な接触(注)の合計は約60万件で、前年比95%ほどの件数となっています。
一方で追徴税額の総額は1,398億円(前年比102.2%)と過去最多を記録しました。国税庁は、本格的に「AI」=人工知能に申告漏れの事例を学習させて税務調査を行う手法を取り入れた結果だとしています。
興味深いのは、「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」が国税庁の資料で公表されていますが、前年度は「経営コンサルタント」、「くず金卸売業」、「ブリーダー」の順位だったのが、令和5事務年度では「経営コンサルタント」、「ホステス・ホスト」、「コンテンツ配信」の順位になっている点でした。ビジネスの様態が変わりつつある昨今ではネットを介したビジネスが多くなってきており、ネット取引を行っている個人に対しては積極的に調査を実施しています。
(注)簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するものです。
相続税にもAI調査が導入
令和7年7月からは相続税申告に対してAIによる“リスクスコア判定”を全国一律で導入すると発表しています。
このAIスコアリングは、過去の調査事績から申告誤りの傾向を分析して、その結果に基づいて申告書データの税務リスクをスコア付けします。対象となるのは、令和5年1月以降に発生した相続案件に基づく申告で、提出された相続税申告書データを全国から集め、申告漏れ等が生じている可能性をスコアとして表示します。現場の各国税局等はそのスコア等に基づき対応を判断します。
繰り返し調査ができる法人税や所得税と異なり、相続税は相続が生じた際にしか調査を実施しないことから調査の機会が限られます。そのため、税務調査が必要となるような事案を取りこぼさないよう体制を整えています。
令和5事務年度(令和5年7月~令和6年6月)に実施した相続税の実施調査などによる追徴税額は857億円で、平成28年事務年度(平成28年7月~平成29年6月)以降で最高となっています。今後はAIによるスコアリングも選定要素として加わり、より効率的に税務調査が進められることが予測されます。
預貯金等情報のオンライン照会制度
AI活用という点からは離れますが、国税庁は税務調査時の資料収集において、金融機関の預貯金情報を取得するためのオンライン照会を令和3年10月から本格運用しています。この制度は、従来の紙ベースでの照会をオンライン化することで迅速かつ広範囲な調査を可能とし、税務調査の効率化に大きく寄与しています。
オンライン照会に対応する金融機関は制度開始当初の37行から令和6年度には431行まで増加しており、国内の金融機関の約7割以上が対応済みとなっています。令和7年度には対応する金融機関を450行としたい考えです。オンライン照会の対象は、銀行・信用金庫・証券会社・生命保険会社など幅広く、今後はクレジットカード会社や資金決済事業者にも拡大する方針が示されており、国税庁は今後、関係省庁や業界団体と連携して照会対象の拡充と制度の高度化を進める予定です。
照会件数は年々増加しており、制度導入初年度(令和3年度)は28万件、令和4年度が263万件でしたが、令和6年度には835万件と大幅に増加しています。
実際の税務調査の現場でも調査官が事前に社長やその家族の事業外口座を照会にかけ、内容について指摘をしてくることがあります。上記より、課税庁側がこういった対応を迅速に取ることができる環境が整ってきています。基本的なことではありますが、改めて説明がつきにくい預金の入出金は極力避けるなど、疑わしい行為は避けるべきと考えます。
記.大阪事務所1課