2025/07/16

戸籍について

戸籍にフリガナが記載されます

今まで戸籍の名前には、フリガナが記載されていませんでしたが、令和5年6月2日、戸籍法の一部改正を含む「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同月9日に公布されました。これにより、戸籍においては記載事項に氏名に加えて、新たにそのフリガナが追加されることになりました。

戸籍に氏名のフリガナが記載されるメリット

(1)行政のデジタル化の推進のための基盤整備行政機関等が保有する氏名の情報の多くは漢字で表記されていますが、同じ漢字でも様々な字体があるほか、外字が使用されている場合には、データベース化の作業が複雑で、特定の者の検索に時間を要していたところ、氏名のフリガナが戸籍上一意に特定されることで、データベース上の検索等の処理が容易になり、誤りを防ぐことができるようになります。

(2)本人確認資料としての利用
氏名のフリガナが戸籍に記載されることにより、住民票の写しやマイナンバーカードにも記載できるようになり、本人確認資料として用いることができるようになるほか、正確に氏名を呼称することが可能な場面が多くなります。

(3)各種規制の潜脱防止
金融機関等において氏名のフリガナが本人確認のために利用されている場合があるところ、複数のフリガナを使用して別人を装い、各種規制を潜脱しようとするケースがありましたが、氏名のフリガナが戸籍上一意に特定されることで、このような規制の潜脱行為を防止することができます。

手続きの流れ

まず先にこの制度開始後に出生や帰化等により、初めて戸籍に記載される者については、下記の手続によらず、出生届や帰化届等の届出時に併せてそのフリガナを届け出ることとなります。

(1)本籍地の市区町村長からの通知を確認
住民票において市区町村が事務処理の用に供するため便宜上保有する情報等を参考に、本籍地の市区町村長から住民票上の住所宛てに、戸籍に記載される予定の氏名のフリガナを通知することとしています。

この通知は、改正法の施行日(令和7年5月26日)から順次送付することとしていますので、送付されましたら内容を確認し、記載されたフリガナが認識と一致している場合は、令和8年5月26日以降に、この通知に記載されたフリガナがそのまま戸籍に記載されますので、届出は不要です。もし認識と違うフリガナが記載されていた場合は、届出を行うことになります。

(2)氏名のフリガナの届出
改正法の施行日後1年以内に限り、氏名のフリガナの届出をすることができます。この届出が受理されれば、届け出た氏名のフリガナが戸籍に記載されることとなります。

通知のフリガナが正しい場合、届出をしなくても、令和8年5月26日以降に、通知に記載されたフリガナがそのまま戸籍に記載されますので、届出は不要ですが、早期の戸籍への記載を希望される方は、フリガナの届出をすることができます。

(3)市区町村長による氏名のフリガナの記載
届出がなかった場合には、本籍地の市区町村長が管轄法務局長等の許可を得て、改正法の施行日から1年を経過した日以降に、通知のフリガナを戸籍に記載します。

届出がなかった場合に戸籍に記載されたフリガナは、一度に限り、家庭裁判所の許可を得ずに変更をすることができます。

具体的な届出の方法

(1)届出をすることができる者について
氏名のフリガナの届出については、氏のフリガナの届出と名のフリガナの届出を行う必要があり、それぞれ届出をすることができる者が異なります。

①氏のフリガナの届出の届出人について
原則として戸籍の筆頭者が単独で届け出ることになります。
筆頭者が除籍されている場合は、その配偶者、その配偶者も除籍されている場合は、その子が届出人となります。
②名のフリガナの届出の届出人について
既に戸籍に記載されている者がそれぞれ届出人となります。

(2)届出方法について
氏名のフリガナの届出は、マイナポータルを利用してオンラインで行うことができます。

(3)戸籍に記載する氏名のフリガナについて
戸籍に記載する氏名のフリガナとして使用できる文字は以下のとおりです。

ア イ ウ エ オ カ キ ク ケ コ サ シ ス セ ソ タ チ ツ テ ト ナ ニ ヌ
ネ ノハ ヒ フ ヘ ホ マ ミ ム メ モ ヤ ユ ヨ ラ リ ル レ ロ ワ ヲ ン 
ガ ギ グ ゲ ゴ ザ ジ ズ ゼ ゾ ダ ヂ ヅ デ ド バ ビ ブ ベ ボ パ ピ プ
ペ ポ ヴ ァ ィゥ ェ ォ ャ ュ ョ ヮ ッ ー(長音記号)

気をつけること

(1)子ども(未成年者)の届出は誰がするのですか。
親権者が届出をすることとなります。ただし、15歳に達した子については、子自身が届出をすることもできると考えられます。

(2)届出をしない場合、どうなりますか。
本制度の開始後に順次本籍地の市区町村長から郵送で、戸籍に記載される予定の氏名のフリガナが通知されることになっています。制度開始から1年の間に届出がなかった場合、本籍地の市区町村長によって、この通知に記載されている「戸籍に記載される予定の氏名のフリガナ」が戸籍に記載されることになります。なお、届出をしなかったとしても、罰則や罰金はありません。

(3)届出をした後に気をつけることはありますか。
届け出たフリガナが他の行政手続(年金やパスポート)等で既に使用しているフリガナと異なる場合は、変更手続が必要となることがあります。

①年金の場合
戸籍のフリガナを変更する場合、年金の受取金融機関の口座名義の変更が必要となります。もし変更しないと年金の支払いが一時的に止まることがあります。日本年金機構から「氏名変更のお知らせ」が送付されますので、金融機関の窓口等で口座名義の変更手続が必要です。

②パスポートの場合
(ア)戸籍に、氏名の「フリガナ」記載が済んでいる方
・新しくパスポートを申請する時に、戸籍の「フリガナ」で申請します。
・現在も有効なパスポートをお持ちの場合
有効期間内のパスポートの氏名と異なるフリガナを戸籍に記載した場合、パスポートの「記載事項変更」の手続きが必要となります。フリガナが記載された戸籍謄本を提出してください。

(イ)戸籍に、氏名の「フリガナ」記載が済んでいない方
今お持ちのパスポート、もしくは過去にお持ちだったパスポートと同じ「フリガナ」で申請してください。

(4)届出することができないフリガナはありますか。
氏名のフリガナについては、「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」との規律が設けられました。
例えば、(1)漢字の意味や読み方との関連性をおよそ又は全く認めることができない読み方(例:太郎をジョージ、マイケル)、 (2)漢字に対応するものに加え、これと明らかに異なる別の単語を付加し、漢字との関連性をおよそ又は
全く認めることができない読み方を含む読み方(例:健をケンイチロウ、ケンサマ)、(3)漢字の持つ意味とは反対の意味による読み方であったり(例:高をヒクシ)、漢字の持つ意味や読み方からすると、別人と誤解されたり読み違い
(書き違い)と誤解されたりする読み方(例:太郎をジロウ)など、社会を混乱させるものや、差別的・卑わい・反社会的な読み方など、社会通念上相当とはいえないものは認められないものと考えられます。

キラキラネームは規制?

ここ数年で話題になっている事柄の1つに、キラキラネームがあります。キラキラネームとは、世間一般とは違う読み方をしたり、当て字を使って
読ませたりする名前のことを指します。他にも、一般的には付けないであろう珍しい名前を付ける場合にもキラキラネームと呼ばれます。
最近ではキラキラネームが行き過ぎていると問題視もされています。

実際に話題になった実在のキラキラネームですが、「悪魔」という名前と「王子様」の2つです。
(1)「悪魔」ちゃん名付け騒動は別の名前を届けて決着
これは「悪魔」と名付けられそうになった子供と名付けたかった親のケースです。
一般的に見れば、「悪魔」という名前はマイナスのイメージでしょうが、親にはきちんとした考えがありました。
親の考えとしては、「悪魔」という特殊な名前を付けられることで子供は否が応でも注目を浴びます。この注目が子供にとってよい刺激となり、バネとして向上し成長するというものです。確かに言い分としては理解できなくもないのですが、裁判所は、子供がこの刺激をバネにしてプラスとして跳ね返すには通常で求められる以上の並々ならぬ気力が必要とされるとして、この名前の届け出を拒否することが正当としています。
結局この親は「阿久魔」という名前で役所に打診しましたがこれも却下され、別の漢字を使ったアクちゃんで決着がついています。

(2)「王子様」くんと名付けられ話題になった男性は改名
もう1つの事例は、実際に「王子様」という名前を親に付けられた男性についてです。
名前を付けたのは男性の母親で、誰にも相談せずに役所に提出していました。「自分にとっての唯一無二の存在。私にとっての王子様」こんな思いを持って男性に名付けをしましたが、男性はこの名前でとても恥ずかしい思いやいじめを経験してしまったのです。
たとえば身分証を提示しないといけない場所では「本名ですか?」と疑われたり、見ず知らずの人から「あっ、王子様だ」と笑われたりしました。
さらには男性の写真が勝手に出回ってしまうなど、かなり辛い経験をしていました。
そして男性が中学3年生のときです。男性が読んでいた大好きな漫画で、登場人物が名前を変えるエピソードがありました。
これをきっかけに自分の名前の改名について調べるようになり、大学入学前に改名の手続きをしました。

男性は「この名前が原因でみじめな思いをした経験がある。今後このようなことが起きないために改名したい」というような趣旨を申請書類に書いて提出し、これが受理されました。

今回、戸籍にフリガナをつけることにより、法務省は氏名の読み方に基準も設けることになったので、キラキラネームに事実上の制限が課せられることになりました。ただこの規制が権利を侵害しないかは疑問があるところですが、国が戸籍管理する上で、字の使用についてすべてを自由にすることができません。自由にすることによる記載上の弊害や管理が困難な名前の規制は合法と考えられます。
しかし過去に実際に起こったキラキラネームによる争いが、今後新たに起こる可能性があるかもしれません。

記.大阪事務所1課