エンジェル税制について
エンジェル税制とは
エンジェル税制とは、スタートアップ企業等に対する投資の促進を図るという観点から、租税特別措置法によって定められた要件を満たすスタートアップ企業等(以降、特定中小会社と表記)への投資をおこなった個人投資家について講じられた税制上の特例措置です。投資家側には所得税の負担を軽減することができるという利点が、企業側には資金調達がしやすくなるというメリットがあります。
エンジェル税制を適用した際の優遇措置をいくつかご紹介します。
投資時点 特定投資株式の取得に要した金額の控除等の特例
・優遇措置A (租税特別措置法第41条の19より)
投資額から2,000円を差し引いた金額を、その年の総所得金額から控除(控除の上限は800万円or総所得金額×40%のいずれか低い方)
【要件】設立5年未満であり、試験研究費等が収入金額の5%超で直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字の企業
・優遇措置B (租税特別措置法第37条の13より)
投資額全額をその年度の株式譲渡益から控除(控除の対象となる投資額に上限は無し)
【要件】設立10年未満であり、試験研究費等が収入金額の5%超の企業
・プレ・シード特例 (令和5年税制改正で創設)
投資額全額をその年度の株式譲渡益から控除(控除の対象となる投資額に上限は無し)
年間20億円まで非課税
【要件】設立5年未満であり、試験研究費等が収入金額の5%超の企業かつ、下記の(1)か(2)を満たす企業
(1)各事業年度の売上が0未満の場合→各事業年度の営業損益0未満
(2)各事業年度のいずれかにおける売上高が0ではない場合→各事業年度の営業損益が0未満、かつ試験研究費等の対出資金比率が30%超
優遇措置A,Bは課税の繰延措置となっています。株式取得時に投資額に対して控除を受けられるものの、売却して売却益が発生した際には、株式の取得価額に調整がされます。
株式譲渡益=売却価額-取得価額(投資額-優遇措置で控除した金額)
対してプレ・シード特例は売却益が発生した際に取得金額の調整がされません(上限は20億円、超えた分は課税対象)
株式譲渡益=売却価額-取得価額
よって先述の2つの優遇措置よりも、大きな節税効果が期待できますが、その分要件が細かく設定されており、対象となる企業はA,Bの要件を満たす企業に比べると少ない傾向にあります。
株式譲渡時点
・売却損失発生時の優遇措置(租税特別措置法第37条の13より)
特定中小会社等の株式の売却により生じた損失を、その年の他の株式譲渡益と相殺することができ、なお控除しきれない譲渡損失の金額はその年の翌年以後3年間にわたり、一般株式等に係る譲渡所得等の金額および上場株式等に係る譲渡所得等の金額から繰越控除することができる。
売却損失発生時の優遇措置は、どの措置を受けても適用することができます。また、これらの優遇措置は単一の投資案件に対しては併用不可のため、複数の要件を満たす場合は、どの措置を適用すると有利になるか検討する必要があります。
また、エンジェル税制には自己資本による起業に対する特例措置もあるのですが、今回は個人投資家に対する優遇措置に着目してご紹介させていただいておりますので、割愛させていただきます。
令和7年税制改正における拡充内容
ここからは、令和7年税制改正の大綱にて記載されている拡充内容をお伝えします。
今回の改正では、先ほどご紹介させていただいた優遇措置B、プレ・シード特例に関して、繰戻還付制度が創設されました。従来の制度では株式の譲渡益が発生した年度に特定中小会社に投資をしなければなりませんでしたが、今回の拡充によって、譲渡益発生の翌年に特定中小会社に対して投資をおこなった場合にも、譲渡益の発生年度に遡って投資相当額を譲渡益から控除できるようになりました。(ただし、適用時期が令和8年1月1日のため、対象となるのはそれ以降に取得した株式)株式譲渡益発生から投資までの期間が実質延長されることで、投資家はどの特定中小会社を支援するかを吟味できるようになり、制度としての利便性が向上しました。
利用申請から確定申告までの流れ
最後に、利用申請から確定申告までの流れを確認したいと思います。
1.企業から都道府県へ、自社が特定中小会社等に該当するかの確認申請
2.都道府県等から特定中小会社等へ確認書交付
3.特定中小会社等が投資家へ確認書等資料を提出
4.投資家が確定申告時に確認書等必要書類を税務署へ提出
ここまで、エンジェル税制についてご紹介いたしました。過去にも幾度かの改正があった当制度は、その都度対象企業の要件や必要書類などが変更されています。特に、要件については上述したもののほかに「外部資本に関する要件」や「未登録・未上場の株式であること」など細かく設定されております。制度を利用する際には、投資先が特定中小企業に該当するか注意深く確認していただくことをおすすめします。
記.名古屋事務所1課