2023/04/19

賃金のデジタル払いについて-後編

デジタル払いの普及に向けて

前回でも述べた通り、賃金のデジタル払いとは使用者による賃金の支払い、かつ労働者の受取方法の選択肢の一つであり、〇〇ペイのような決済アプリや電子マネーに対して送金し、賃金の支払いを行うことです。
早速PayPay株式会社は、賃金のデジタル払いへの対応に向け、資金移動業者として厚生労働大臣の指定を受けるため、2023年4月1日付で指定申請を提出したと発表がありました。
PayPayは賃金のデジタル払いの実現により、労働者にとって給与の受取方法の選択肢や自由度が拡がること、従来の決済アプリユーザーが都度行っている残高のチャージの手間がなくなるなどといった利便性の向上にもつながると考えているようです。

ではその他にメリットやデメリットがないのか企業側と従業員側の視点から見ていきたいと思います。

企業側のデジタル払いのメリット・デメリット

企業側のメリット

企業側のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

・振込手数料の削減
・従業員満足度の向上

資金移動業者のデジタル払いによる振込手数料は、銀行と比べ低い、あるいは発生しないこともあります。
企業の従業員の数によっては振込手数料を抑えることで、コスト削減につながります。
決済アプリ・電子マネーの普及によりデジタル給与へのニーズも一定数あると考えられることから、その要望を持つ従業員の満足度にも影響するでしょう。

企業側のデメリット

続いて企業側のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

・担当部門の負担が増加する
・システムの改修が必要

まずは担当部門の負担が増加することです。
デジタル給与がスタートすることで、デジタルと現金の二重運用が開始されることになります。
二重運用を行っていくことになれば、給与担当者の負担増加は避けることはできないでしょう。
デジタル給与に対応することで、既存システムの改修も必要になってくるかもしれません。
その場合には、改修コストもかかってしまいます。

従業員側のデジタル払いのメリット・デメリット

従業員側のメリット

従業員側のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

・現金化の手間がなくなる
・給与を受け取る選択肢が増える

キャッシュレス決済が浸透してきた現在では、普段から現金を持たないという人も少なくありません。
キャッシュレス決済を頻繁に利用しているのであれば、電子マネーへのチャージをする手間がなくなり、利便性が高まります。
また、給与は必ず銀行口座に振り込まれなくてはいけないということはなくなり、自身の生活スタイルに合わせて選択することができるので、給与の受取り方の選択肢が増えるのも、メリットと言えるでしょう。

従業員側のデメリット

続いて従業員側のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

・資金移動業者が破綻した場合の安全性の担保
・個人情報流出の懸念

厚生労働大臣の指定を受けようとする資金移動業者は、要件の一つである「破産等により債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。」を満たすことを示す申請書を提出することになっています。
しかし、実際に破綻が起こった場合にはきちんと保証がされるかの懸念があります。また、資金移動業者への不正アクセスによる個人情報流出の懸念も考えられます。
こうした債務の保証やセキュリティ面について、利用する従業員は十分に認識する必要があるでしょう。

記.大阪事務所3課