2021/09/28

不動産取得の消費税について

令和2年改正前の居住用賃貸建物を取得した場合の消費税計算

消費税は事業所が預かった消費税を国に納付することになっています。その際、経費で支払った消費税は差し引きすることができます。

預かった消費税額 - 支払った消費税額 =納付する税額

この支払った消費税を差引することを仕入税額控除と言います。建物など資産を購入したときも、まとめて仕入という表現を使っています。

居住用の賃貸建物を取得した場合、従来の計算では、税額の計算方法の種類ごとに一定額の仕入税額控除が可能でした。
計算方法ごとの仕入税額控除額を記載していきます。

① 課税売上割合が95%以上かつ申告年度の課税売上高が5億円以下の場合
全額控除可能

② 個別対応方式を選択している場合
課税仕入れに要するもの以外の課税仕入れに該当し、仕入れ税額控除の対象外

③ 一括比例配分方式を選択している場合
居住用建物に係る消費税額×課税売上割合 

①に該当しない場合は、②と③を選択して計算を行うこととなります。

従来の方法では、①、③の計算方法の場合に仕入税額額控除が発生し、建物の仕入れ等の日の属する課税期間の課税売上割合の大きさにより控除金額の大きさが左右されました。そのため、賃貸を始める前に自販機を設置させたり、建物賃貸以外に地金等を売買し課税売上割合を高めて、消費税の還付を受ける方がいました。
今回の改正で、居住用賃貸建物の仕入れ税額控除の取扱いが変更されました。

居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限

2020年10月以降に取得した居住用賃貸建物に係る消費税額については仕入税額控除の対象としないこととされました。
※2020年3月31日までに締結した契約に基づき2020年10月1日以後に行われる課税仕入れ等は、この制限の対象外になります。
ただし、取得した課税期間の初日から3年後の課税期間までに居住用の貸付け(非課税売上)から事務所等用の貸付(課税売上)に転用、又は居住用賃貸建物を譲渡したときは一定金額を仕入税額控除に加算できる調整措置があります。

居住用賃貸建物は、どういったものがあてはまるのでしょうか。
 
表現がややこしいですが、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するもの」とされています。
高額特定資産は1つの取引単位あたりの税抜金額が1,000万円以上のものをいい、調整対象自己建設高額資産は建設に要した税抜金額の累計額が1,000万円以上のものをいいます。
1軒当たり1,000万円未満の建物は、この制限を受けないこととなり原則通り課税仕入れの対象となります。 
住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物は、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、基本通達で例示されています。

①建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など、建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物

②旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項《定義》に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物

③棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの

居住用賃貸建物に該当するかの判定時期ですが、課税仕入れ等を行った日の状況により判定するのが原則で、課税仕入れ等を行った日に住宅の貸付に供するかあいまいなものは、課税仕入れ等を行った日の属する課税期間の末日までに住宅の貸付けの用に供しないことが明らかにされたときは、居住用賃貸建物に該当しないものとされるようです。
また、建物全体が住宅の貸付けの用ではなく、一部、事務所、店舗用として貸し付けている建物は、使用面積割合や建設原価の割合など合理的な区分の方法で居住用賃貸建物に該当する部分と該当しない部分に分けて消費税の計算を行うこととなります。

居住用賃貸建物に該当するときは、取得時に仕入税額控除ができなくなりましたが一定の場合は後の課税期間で調整できますので、次の項目で紹介させていただきます。

居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整

「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」の適用を受けた「居住用賃貸建物」について、一定の調整期間に課税賃貸用に供した場合又は一定の課税期間に他の者に譲渡した場合には、仕入れ税額控除を調整することとされました。
通常の税額計算で計算された仕入税額控除に調整金額を加算することとなります。
それぞれの調整額についてご紹介していきます。
  
① 課税賃貸用に供した場合
課税賃貸用に供した場合の一定の課税期間は、居住用賃貸建物の仕入れ等の日から第三年度の課税期間の末日までの間の期間となります。第三年度の課税期間は仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間をいいます。決算期の変更等がなければ、仕入れ等の課税期間の翌々期までの期間です。

仕入税額控除の調整額は下記のとおりです。
  
居住用賃貸建物の課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税賃貸割合
 
課税賃貸割合は下記の割合になります。
  
一定の課税期間に行った課税賃貸用に供した対価の額 ÷ 一定の課税期間に行った居住用建物の貸付の対価の額の合計額(課税賃貸部分も含んでいます)
 
床面積などの按分ではなく、賃料収入によって調整を加えることとなるようです。
居住用賃貸建物に係る税額が1,000万円、課税賃貸割合が50%の場合、第三年度の課税期間に生じた課税仕入れにつき算定した仕入税額控除に500万円(1,000万円×50%)を加算することとなります。

② 他の者に譲渡した場合
他の者に譲渡した場合の一定の課税期間は居住用賃貸建物の仕入れ等の日からその建物を譲渡した日までの期間となります。建物の譲渡は第3年度の課税期間までに譲渡した場合が調整の対象になります。

仕入税額控除の調整額は下記のとおりです。

居住用賃貸建物の課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税譲渡等割合

課税譲渡等割合は下記の割合になります。

(課税賃貸用に供した対価の額 + 居住用賃貸建物の譲渡対価の額) ÷ (一定の期間に行った居住用建物の貸付対価の額の合計額 + 居住用賃貸建物の譲渡対価の額) 

建物を譲渡した場合も全額は控除できず、居住用として賃貸した対価の額の影響も受けることとなります。譲渡時の消費税申告に注意が必要になりそうです。
今回の改正で仕入税額控除の調整項目が増えましたので、調整対象固定資産と一緒に固定資産の管理にひと工夫が必要になるかもしれません。

記.東京事務所2課