2019/11/15

概算経費について

所得税法の規定

所得税法において、概算経費は下記に掲げる規定があります。

長期譲渡所得の概算取得費控除

譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費は、 土地の場合、買い入れたときの購入代金や購入手数料などの合計額です。
建物の場合は、購入代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた額です。
しかし、売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、 買い入れた時期が古いなどのため取得費がわからない場合には、取得費の額を売った金額の5%相当額とすることができます。
また、実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も同様です。
例えば、 土地建物を5,000万円で売った場合に取得費が不明のときは、売った金額の5%相当額である250万円を取得費とすることができます。

上場株式等に係る譲渡所得等に係る課税の特例

株式等を譲渡した場合の譲渡所得の金額は、譲渡価額から取得費と売却手数料等を差し引いて計算します。
取得費は、株式等を取得したときに支払った払込代金や購入代金ですが、購入手数料のほか購入時の名義書換料などその株式等を取得するために要した費用も含まれます。
譲渡した株式等が相続したものであるとか、購入した時期が古いなどのため取得費が分からない場合には、同一銘柄の株式等ごとに、取得費の額を売却代金の5%相当額とすることも認められます。
実際の取得費が売却代金の5%相当額を下回る場合にも、同様に認められます。
例えば、ある銘柄の株式等を500万円で譲渡した場合に取得費が不明なときは、売却代金の5%相当額である25万円を取得費とすることができます。

山林所得の概算経費控除

山林所得とは、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得をいいます。
ただし、山林を取得してから5年以内に伐採又は譲渡した場合は、山林所得ではなく事業所得か雑所得になります。
また、山林を山ごと譲渡する場合の土地の部分は、譲渡所得になります。

山林所得の金額は、次のように計算します。
 総収入金額-必要経費-特別控除額(最高50万円)
=山林所得の金額
(1) 総収入金額
譲渡の対価が収入金額となります。
(2) 必要経費
必要経費は、植林費などの取得費のほか、下刈費などの育成費、維持管理のために必要な管理費、さらに、伐採費、搬出費、仲介手数料などの譲渡費用です。
(3) 必要経費の特例
必要経費には、概算経費控除といわれる特例もあります。伐採又は譲渡した年の15年前の12月31日以前から引き続き所有していた山林を伐採又は譲渡した場合は、収入金額から伐採費などの譲渡費用を差し引いた金額の50%に相当する金額に伐採費などの譲渡費用を加えた金額を必要経費とすることができます。

仮想通貨の取得価額

ビットコインを代表とする、仮想通貨を売却又は使用することにより生ずる利益については、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して
生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されます。
仮想通貨を売買した場合における事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、総収入金額に係る売上原価その他その総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額となりますが、仮想通貨の売買による収入金額の100分の5に相当する金額を仮想通貨の取得価額として事業所得の金額又は雑所得の金額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとします。

社会保険診療報酬の所得計算の特例

医業又は歯科医業を営む個人が、各年において社会保険診療についての収入金額が5千万円以下であり、かつ、個人が営む医業又は歯科医業から生ずる事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が7000万円以下であるときは、その年分の事業所得の金額の計算上、社会保険診療に係る費用として必要経費に算入する金額は、その支払を受けるべき金額を次の表に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表に掲げる率を乗じて計算した金額の合計額となります。

2500万円以下の金額 100分の72
2500万円を超え3千万円以下の金額 100分の70
3千万円を超え4千万円以下の金額 100分の62
4千万円を超え5千万円以下の金額 100分の57

法人税法の規定

法人税法において、概算経費は下記に掲げる規定があります。

医療法人の概算経費の特例

医療法人が、各事業年度において社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合において、その各事業年度の支払を受けるべき金額が5,000万円以下であり、かつ、各事業年度の総収入金額が7000万円以下であるときは、その各事業年度の所得の金額の計算上、社会保険診療に係る経費として損金の額に算入する金額は、その支払を受けるべき金額を次の表のに掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる率を乗じて計算した金額の合計額となります。

2,500万円以下の金額 100分の72
2,500万円を超え3,000万円以下の金額 100分の70
3,000万円を超え4,000万円以下の金額 100分の62
4,000万円を超え5,000万円以下の金額 100分の57

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の特例

概算経費とは少し違いますが、貸倒引当金に法定繰入率というものがあり、金銭債権の貸倒引当金の繰入額に適用しています。

下記(1)の各法人については、繰入限度額の計算に当たり、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の実績繰入率に基づく計算に代えて、下記(2)の繰入限度額の計算によることが認められています。
(1)対象となる法人
①事業年度末における資本金が1億円以下(一定の要件有)
②公益法人等又は協同組合等

(2)繰入限度額
次の算式により計算します。
繰入限度額=[期末一括評価金銭債権の帳簿価額―実質的に債権とみられない金額]×法定繰入率(注)
(注)法定繰入率は下表のとおりです。
・卸売業及び小売業・・・10/1000
(飲食店業及び料理店業を含みます)
・製造業・・・8/1000
・金融業及び保険業・・・3/1000
・割賦販売小売業並びに包括信用購入あっせん業
 及び個別信用購入あっせん業・・・13/1000
・その他・・・6/1000

消費税法の規定

冒頭の見出しで、所得に対する課税について述べましたが、参考として消費税法の世界での概算経費の様な制度があります。それは簡易課税制度のみなし仕入率と言うものです。

消費税の納付税額は、通常は次のように計算します。

課税売上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額

しかし、その課税期間の前々年又は前々事業年度(基準期間という。)の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる簡易課税制度の適用を受けることができます。

この制度は、仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするというものです。この一定割合をみなし仕入率といい、売上げを卸売業、小売業、製造業等、サービス業等、不動産業及びその他の事業の6つに区分し、それぞれの区分ごとのみなし仕入率を適用します。

みなし仕入率
第一種事業(卸売業)90%
第二種事業(小売業)80%
第三種事業(製造業等)70%
第四種事業(その他の事業)60%
第五種事業(サービス業等)50%
第六種事業(不動産業)40%

【簡易課税の計算例】

売上高5,500万円 小売業(みなし仕入率80%)の場合の消費税額

①売上にかかる消費税額
5,500万円(税込)÷110%=5,000万円(税抜)
5,000万円(税抜)×7.8%(国税)=3,9000,000円

②仕入にかかる消費税額
3,900,000円×80%=3,120,000円

③差引税額
①(3,900,000円)-②(3,120,000円)=780,000円

④地方消費税額
③(780,000円)×22/78=220,000円

⑤納付税額
  ③(780,000円)+④(220,000円)=1,000,000円

※令和元年10月以降の消費税額の計算は、先に国税(7.8%)を求め、次に地方税(2.2%)を求めます。

以上のように税法では、①必然性②救済措置③簡便性などの見地から、概算経費の特例を認め税額計算をする様になっている場合があります。